CO2を回収・貯蔵するCCS

CO2を「無かったことに」する技術


 発電などに伴い発生するCO2ですが、それを回収して貯蔵する「CCS」という技術の開発が進められています。どのようなものなのか、分かりやすく解説します。



CO2の回収・貯蔵とは?


 まずはCCSとは何なのか、簡単に解説します。


仕組みはこう


 発電所や工場から発生するCO2を集めて、貯蔵することで発生したCO2を「排出しない」取り組みです。


 工場や発電所の排ガスを化学的に分解することで、排ガスからCO2を取り出します。そのCO2をパイプラインやタンクローリー、タンカーなどで運んで決められた場所に「貯蔵」するというのがおおまかな流れです。


 排出する前に閉じ込めるため、CO2を排出していないことに出来ます。


CO2をどこに閉じ込めるのか


 日々の生産活動によって発生するCO2の量は膨大です。その膨大なCO2を安価に「貯蔵」するために以下のものを活用する取り組みが世界各地で行われています。



 油田にCO2を注入する方法はEORと呼ばれます。石油を含んだ地層にCO2を注入することで圧力を高め、石油の生産量を増やすことを目的とした取り組みで、石油の生産効率化とCO2対策を一度に行えるものです。必ずしもCO2の貯蔵を目的として行われているわけではありませんが、北米などでは1970年代から運用を開始しているプロジェクトもあります。


 Global CCS instituteの2017年のレポートによると、世界で稼働中の18件の大規模CCSの内、14件がEORとされています。


CO2排出が許されない時代の解決策として期待


 将来的に、CO2を排出することが許されない時代が訪れる可能性は低くないでしょう。既に先進国を中心に、CO2削減が大きな課題となっており、「排出ゼロ」どころか、カーボン・ネガティブといってCO2排出量を「マイナス」にする取り組みも始まっています。


 CCSは発電所や工場などから発生してしまうCO2を「無かったことに」出来る技術なので、排出ゼロ社会の実現に向けた重要な解決策の一つとして注目が高まっていくでしょう。


 IEAのレポート(2017年)でも、2060年時点のCO2排出量削減量の14%をCCSが担うことを想定しており、再生可能エネルギーの普及や省エネ化に次いで大きな役割が期待されていることが分かります。


世界各地で実証実験が進む


 CCSはEORのように既に稼働しているものもありますし、世界各地で実証実験に向けた動きも進んでいます。


世界で稼働中のプロジェクト


 世界で稼働中(2018年時点)のCCSを経産省の資料から引用します。


名前 開始年 方式 年間処理量 排出源
Val VerdeNatural Gas Plants 1972 アメリカ EOR 130万トン 天然ガス
Enid Fertilizer 1982 アメリカ EOR 70万トン 肥料生産
Shute Creek Gas
Processing Facility
1986 アメリカ EOR 700万トン 天然ガス
Sleipner 1996 ノルウェー 海底帯水層 85万トン 天然ガス
Weyburn 2000 カナダ EOR 300万トン 合成天然ガス
SnOhvit 2008 ノルウェー 海底帯水層 70万トン 天然ガス
Century Plant 2010 アメリカ EOR 840万トン 天然ガス
Air Products 2013 アメリカ EOR 100万トン 水素製造
Coffeyville Gasification Plant 2013 アメリカ EOR 100万トン 肥料生産
Lost Cabin Gas Plant 2013 アメリカ EOR 90万トン 天然ガス
Petrobras Lula 2013 ブラジル EOR 100万トン 天然ガス
Boundary Dam 2014 カナダ EOR 100万トン 発電所
Uthmaniyah 2015 サウジアラビア EOR 80万トン 天然ガス
Quest 2015 カナダ 陸上帯水層 108万トン 水素製造
Abu Dhabi 2016 UAE EOR 80万トン 製鉄所
Petra Nova 2016 アメリカ EOR 140万トン 発電所
Illinois Industrial 2017 アメリカ 陸上帯水層 100万トン 化学品生産
CNPC Jilin Oil Field
CO2EOR (Phase3)
2018 中国 EOR 60万トン 天然ガス

 北米の案件が多いですが、ブラジルやUAE、中国など新興国でのプロジェクトも稼働しています。


北海道・苫小牧でも2019年まで実証実験を実施


 日本でも新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトとして北海道の苫小牧でCCSの大規模実証実験が2019年まで行われていました。


 2016年4月から2019年11月まで、苫小牧の製油所の水素製造装置から発生する排ガスからCO2を分離、回収したCO2をパイプラインを通じて海底の帯水層に送り込み、そこで貯蔵を行うという実験です。


 30万トンのCO2を注入するという計画を達成し、2019年に終了。現在は周辺環境への影響などをモニタリングしている段階です。


課題は「コスト」


 CCSの課題はコストです。


1トンあたり11129円 コストの内訳は


 苫小牧で行われた実証実験の報告書によると、年間20万トンを生産した場合のコストは1トンあたり11129円と見積もられています。コストの内訳は以下のとおり(いずれも経産省資料から)


設備コスト 運転コスト 合計
分離・回収 335円 1860円 2195円
CO2圧縮 385円 2174円 2559円
共通設備 132円 686円 818円
圧入井・貯留 922円 4635円 5557円
合計 1774円 9355円 11129円

 特に大きいのは運転コストの方で、更にその中でも「圧入井・貯留」にコスト全体のコストが高いことが分かります。


 一方、年100万トンを生産した場合の試算では「圧入井・貯留」のコストが5557円から1517円へと大幅に下がり、全体としてのコストも6186円と44%も低下します。CCSは一定以上の規模で実施することが必要だと言えそうです。


 同じく経産省の資料には参考データとしてカナダの「Quest Project」の数値が紹介されていますが、こちらも1トンあたり6708円程度と見積もられています。


CCSを追加した火力発電の「発電コスト」は?


 1トンあたり6186円というコストは高いのか安いのか。


 火力発電で発生するCO2の量(1kWhあたり)を元に計算してみます。


発電方法 発電時のCO2排出量
石炭火力発電 864g-co2/kWh
LNG火力 476g-co2/kWh
LNG火力
コンバインド
376g-co2/kWh
石油火力発電 695g-co2/kWh

 各火力発電にCCSを組み合わせた場合のコストは以下のとおり(CCSを1トンあたり6186円とする) CCSを実施するにもCO2が発生しますが、計算が面倒なのでここでは無視します。


ケース CCSコスト
(1kWhあたり)
石炭火力発電
→排出ゼロ
5.34円/kWh
LNG火力
→排出ゼロ
2.94円/kWh
LNGコンバインド
→排出ゼロ
2.33円/kWh

 固定価格買取制度を支えるために導入された再エネ賦課金は2020年度には1kWhあたり2.98円/kWhなので、LNG火力+CCSは現在の再エネ賦課金と同額水準と言えます。


 続いて、各発電方法の「発電コスト」を見てみましょう(2014年時点での見積もり:2015年政府公表値)


発電方法 発電コスト
2014年時点
発電コスト
+CCSコスト
石炭火力発電 12.3円/kWh 17.64円/kWh
LNG火力 13.7円/kWh 16.64円/kWh
水力発電 11.0円/kWh
原子力発電 10.1円/kWh
メガソーラー 24.3円/kWh

 CO2の排出が許されない風潮が世界的に強まっていますが、今後仮に全ての火力発電所にCCSが設置された場合、現在「安い」とされている石炭火力発電がLNG火力よりも割高となる点は興味深いです。


 また、メガソーラーの発電コストは2014年時点では24.3円/kWhですが、2030年時点では12.7〜15.5円と推計されており、CCSを追加した火力発電の方が発電コストが高くなる可能性もあります。


 全ての火力発電にCCSというのは2020年時点では現実味がありませんが、例えば2015年の環境省の資料には「すべての火力発電所にはCCSが設置されている。」(2050年を見据えた温室効果ガスの大幅削減に向けて P.10)という想定が記されており、私が勝手に唱えているわけではないことを付しておきます。


排出量取引などとの競合も


 CO2排出量を「ゼロ」に出来るのはCCSだけではありません。例えば排出量取引の枠組みを活用することで、火力発電所から排出されるCO2を数字上「削減」することも可能です。


 CCSは、排出量取引の取引価格との競争にもさらされるでしょう。




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