あまり知られていない「温排水」という環境問題
世間での関心、あるいは知名度が低い「温排水」という環境問題があります。どのようなものか、分かりやすく解説した上で家庭でも出来る対策を紹介します。
目次
温排水とは
そもそも「温排水」とは何か、分かりやすく解説します。
発電所・工場などから排出される温かい排水
温排水とは、読んで字の如く「温かい排水」です。
例えば火力発電所や原子力発電所では、設備を冷やすための冷却水として海水を取り込み、そして冷却し終えたあとの水を海に戻しています。発電所からの温排水は、取り込んだ海水よりも一般的に7度程度高いです。
また、工場でもやはり冷却水として使われた水が排出されているケースがあります。例えば製鉄所で鉄をつくる際、原料を高温で溶かしていますが、その過程で生じる熱を取るために水で冷やしています。水で冷やすとその水は当然暖かくなるので、それが温排水となります。
また、都市から排出される下水処理水も温排水の一つです。お風呂やシャワーなど、人々は日常生活の中で膨大なお湯を捨てていますが、下水処理水の水温は冬季でも20度前後と高い場合が多いです。
法律による規制の対象となっている
熱々のお湯を海や川に捨てることは出来ません。日本でも1970年に成立した水質汚濁防止法によって、水温の上昇が「水質汚濁」の一つとして定義され、規制の対象とされています。また、下水道法でも下水道に流してもよい排水の温度を45度未満と定めています。
温排水がもたらす我々の生活への影響
温排水がもたらす我々の生活への影響や、環境問題を紹介します。
生態系への悪影響
大量の温排水は海水温の上昇を招き、海の中で暮らす生物に影響を及ぼす恐れがあります。
例えば東京湾の海水温は30年前(2007年時点の研究)と比較して、約2度上昇(東京湾における水温の長期的変動/水産総合研究センター東京湾漁業研究所) あるいは湾全体で1.7度上昇(1966〜75年と93〜2003年のそれぞれ10年間の各月の平均)したとする研究(東京湾及び周辺水域の長期水温変動特性/水産総合研究センター東京湾漁業研究所)などがあります。これらは必ずしもすべてが温排水の影響によるものとされているわけではありませんが、温排水の影響が大きいのではないか、と指摘されています。
海水温の上昇が海の生態系に大きく影響を及ぼすことは言うまでもありません。これまでそこで暮らしていた生物がいなくなり、これまでいなかった生物が定着する可能性があります。
一方、こうした温排水を真鯛やヒラメなどの養殖に活用する取り組みも各地で行われています。また、温排水を排出している発電所や工場の周辺の海が「釣り場」として釣り人たちの間で人気を集めているケースもあります。
都市の気温上昇を招く
海水温の上昇は、隣接する大都市の平均気温の上昇を招くとする複数の研究があります。いずれも大阪湾での事例ですが、海面温度を1度低下させることで都市部の最低気温が0.3度低下する(玉井ら 2007)や、1度の海面温度上昇が都市の平均気温を0.6度上昇させる(二宮ら 2009)とする研究があります。
真冬の寒い日に、湯船にお湯を張ると風呂場全体が少し暖かくなるとイメージすると分かりやすいでしょう。
- 海面温度が1度低下→都市の最低気温が0.3度低下
- 海面温度が1度上昇→都市の平均気温が0.6度上昇
家庭でも出来る温排水の削減
最後に、家庭でも出来る温排水の削減に貢献する方法を紹介します。
お湯の使用を減らす
家庭からの温排水を減らすには、「お湯」の利用を減らすことが効果的と言えます。
簡単かつ効果的な方法としては、風呂場で使うシャワーヘッドを節水型のものに替えることをおすすめします。例えば1000円台で購入出来る国内大手メーカーのシャワーヘッドでは、湯量を31%減らせることを謳っています。温排水を削減出来るのはもちろん、ガス代・水道代の節約にもなります。
取り付け、取り外しは簡単で賃貸住宅でも問題はありません(外した部品は無くさないように注意してください)
家庭でお湯の使用量が多いのは風呂場です。例えば週1回、月1回などの頻度で近所の銭湯を利用することでも、温排水を減らすことが出来ます。もちろん銭湯で温排水が発生しますが、家庭で湯船に浸かるよりも銭湯の方が大幅な節水となるため温排水の削減効果が期待できます。
節電・再生可能エネルギーの活用
火力発電所や原子力発電所では大量の温排水が発生します。電気を使う量を減らすことは発電所由来の温排水を減らすことに貢献します。
また、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーはもちろん温排水を排出しません。そうした自然エネルギーを活用している電気料金プランを契約することでも温排水の削減に貢献出来ます(再エネでもバイオマス発電は温排水を排出しているものがある)
一方、火力発電でも温排水を排出しないものがあります。神戸製鋼所の子会社が2019年に栃木県で運転を開始した真岡発電所は国内初の内陸型火力発電所とされ、海から約50Km離れたところに立地していますが、この発電所は温排水を排出していません。なお、真岡発電所でつくられた電力は東京ガスに供給されています。
また、コンバインドサイクル発電と呼ばれる高効率型の発電所では、同程度の出力の一般的な火力発電所と比べて温排水の量が5〜6割程度と大幅に少ないです。