脱石炭への声が高まっているが・・
重い腰を上げ「脱石炭」へと舵を切り始めた日本。環境意識が高い消費者の中にも石炭火力発電でつくられた電気をボイコットしようという動きも一部にあるようですが、私はこうした動きに意味は無いのではないかと考えています。その理由を解説します。
目次
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意味が無いと思う理由
「意味が無い」と思う理由を述べます。
達成されるべきはCO2排出量の削減
石炭火力発電がやり玉に上がっているのは、発電時のCO2排出量が多いことが最大の理由です。地球温暖化防止のために、石炭火力発電をやめようというのが運動の主目的です。
しかし、石炭火力発電から電力を調達している電力会社(新電力)が必ずしもCO2を多く排出しているわけではないという事実があります。
例えば電源構成に占める石炭火力発電の割合を10%(2018年度実績)と公表している東京ガスは、1kWhあたり398gのCO2を排出しています。この398gという数字は東京電力を始めとする大手電力10社や、多くの新電力と比較してもCO2排出量が少ないと言えるものです。
石炭火力発電はCO2排出量が多いというのは事実であり、電源構成に占める石炭火力の割合が高くなればCO2排出量が増えるのは間違いありません。一方で、石炭火力発電から電力を調達している電力会社・新電力が必ずしもCO2を多く排出しているとも言えません。
石炭火力発電からの調達を公表している電力会社・新電力を一律に排除してしまう姿勢は、CO2排出量の低減に取り組む企業を正当に評価出来ないものです。
電源構成を詳細に公表している新電力は稀
日本では電源構成の詳細な開示は義務ではありません。そのため、電源構成を詳細に公表している新電力は多くありません。聞こえの良い再生可能エネルギーの部分だけ詳細に公表し、「その他」が70%を超えるような電源構成を公表している新電力もあります。再生可能エネルギーの比率の高さを売りにしている新電力であっても、詳細に全て公表しているところは稀です。
また、多くの新電力が利用している卸電力取引所や、あるいは常時バックアップやインバランス(大手電力会社からの補給)と呼ばれる調達手段がありますが、この部分には石炭火力発電で作られた電力が含まれます。そのため、電源構成に「石炭」と明記されていない場合でも、実際には石炭が含まれている可能性は低くありません。完全に特定の電源構成で100%構成された料金メニューでなければ、石炭火力発電でつくられた電力が含まれると考えてよいです。
しかし現状では、完全に特定の電源によって構成された料金メニューというのは、大手電力会社が提供している水力発電100%プランなどに限られるため、選択肢が限られています。
消費者の意思は電力会社に伝わりづらい
「石炭を選択しない」という個人の行動は尊重されるべきだと思いますし、私もそのような考えを否定するつもりはありません。しかし、そういった行動はサービスを提供している側にはほとんど伝わらないものです。「選ばない」という意思表示だけでは、電力会社に脱石炭を促す効果は無いでしょう。
また、私はこのサイトを運営して6年にわたり痛感していますが、多くの消費者は「エコ」よりも電気代の「安さ」を求めています。石炭の有無を気にする人は少数派と言え、多くの新電力の営業活動にほぼ影響を与えません。「脱石炭」の声はそういった面からも、届きにくいと言えます。
取るべき行動は?
以上の点をふまえて、電力会社に「脱石炭」を促す効果的な行動を提案します。
CO2排出量が少ない新電力を選ぶ
温暖化対策に貢献するには、CO2排出量が少ない電力会社を選ぶことが有効です。詳細に公表されていない場合が多い電源構成に対し、CO2排出量は「CO2排出係数」として環境省のサイトで一覧で数値として比較できます。
CO2排出量の多い/少ないは必ずしも電気代の安さとは比例していないので、環境意識が低い人も含めてCO2排出量のデータはぜひ確認した上で電力会社を選んでほしいと思います。
また、CO2排出量のデータは毎年年末もしくは年始に環境省のサイト上で更新されていますが、年度によって数値が悪化/改善する電力会社もありますし、年々改善あるいは悪化していく電力会社もあります。一度契約したらしっぱなしにするのではなく、毎年1月に確認することをおすすめします。
CO2排出量を削減するには石炭火力発電からの調達を減らす必要があるので、石炭火力発電を削減する効果もあります。
再エネ系の新電力を選ぶ
再生可能エネルギーを活用している電力会社や料金メニューを選ぶことも、地球温暖化防止に貢献できます。最近は再エネ100%あるいはCO2排出量ゼロを謳った料金メニューも登場しているので、そのようなプランを選ぶことでCO2排出量を100%削減できます。
注意点としては、FIT電気と呼ばれるものがしばしば再生可能エネルギーかのように紹介されていますが、これは日本のルールでは再生可能エネルギーとしては扱わない、CO2を排出する電力として位置づけられています。「再生可能エネルギー」の中身にも注目して選んでください。ここでもやはり、CO2排出量を確認するのが有効です。