「再エネ」が太陽光にばかり偏って増えている日本
世界で進む脱炭素化の一つの解決策として導入が進む再生可能エネルギーですが、日本ではその再エネが太陽光発電に偏っている現状があります。そのことが引き起こしている問題点と、我々がやるべきことを提案します。
目次
増加を続ける太陽光発電
まずは日本での太陽光発電導入の現状を紹介します。
導入量の推移
エネルギー白書2020のデータから作成した、日本国内での太陽光発電の導入量の推移(1993〜2018年)を紹介します。
特に2011年に固定価格買取制度が成立して以降に、急速に導入量が増えたことが分かります。
導入も運転も簡単、だから増える。
固定価格買取制度では、太陽光発電以外にも風力や中小水力、地熱、バイオマス発電の一部も余剰電力の買取の対象となっていますが、実際の買取は太陽光発電が中心となっています。
資源エネルギー庁公式サイトから引用した、固定価格買取制度開始からの累計の買取電力量のグラフです(20年9月末時点、21年1月更新)
様々な種類の「再生可能エネルギー」がある中で、7割を太陽光発電が占めています。日本の再生可能エネルギー導入は太陽光発電に「偏っている」と言えます。
太陽光発電は他の発電方法と異なり、住宅の屋根にも設置できるほど誰でも簡単に、比較的小さな初期費用で導入が可能です。風力発電や地熱発電のような綿密な風況、地下の調査も必要ありません。そのため他の再エネ発電よりも普及が進んでいる側面があります。
住宅への設置義務化も検討中
2021年4月、小泉環境大臣が新築住宅やビルへの太陽光発電の設置義務化を検討する方針を打ち出しました。現状、住宅総数に占める太陽光発電設置率は約9%程度(19年度)とされており、新築住宅への設置がもし義務化されれば、今後30〜40年かけて設置率が100%に近づいていくことになります。
太陽光発電ばかり増えた結果、今起きていること
再生可能エネルギーの中で太陽光発電ばかり導入が進んでいく中で、様々な問題も生じています。現状の問題点を解説します。
昼間の電力供給が過剰に
太陽光発電の導入量が増えたことで、九州など一部地域では「供給過剰」という問題が生じています。
電力は需要量と供給量を常に一致させる必要があります。意外かもしれませんが、需要よりも多く供給した場合でも「大規模停電」が発生するリスクがあります。
そのような事態を防ぐため、九州では「出力制御」という対応が行われています。出力制御は、供給が需要を上回る危険性があるタイミングで、主に再生可能エネルギーによって発電された電力を送電線に流さず「捨ててしまう」対応です。九州では晴天の昼間に頻繁に実施されており、四国や東北でも実施が検討されています。
出力制御の増加で収益性が低下
出力制御に対応している太陽光発電設備は、対応していない設備よりも高い売電価格が設定されています。出力制御が行われることで売電収入が減少することに対する補償と言えます。
ですが出力制御の頻度が今後ますます増えた場合、太陽光発電の収益性が低下することは避けられません。結果として、太陽光発電の導入にブレーキが掛かる可能性があります。
昼間の電力取引価格の下落
出力制御が実施されているタイミングではほぼ必ず、電力の取引価格が「ほぼ0円」で推移します。通常、年間平均で8円以上で取引されているものが、0.01円/kWhという下限の値段しかつきません。
特に九州を始め、中部・北陸以西のエリアではこの昼間の価格暴落が著しいです。過去、原子力発電所が全国で稼働していた時代には、深夜に供給が余りやすい傾向があり、オール電化を始め深夜割引の料金メニューが数多くありました。
しかし現在は(晴天の)昼間に供給が余りやすいため、昼間の料金単価を安く設定した料金プランも登場しており、わずか10年の間に日本の電力事情は一変しています。
再エネ賦課金の上昇
日本では再生可能エネルギーの導入促進を目的として、高い価格で余剰電力を一定期間買い取る「固定価格買取制度」が導入されています。その制度によって太陽光発電が2012年頃から急速に普及した、というのは記事前半で紹介したとおりです。
ですが固定価格買取制度は、国民全体が負担している「再エネ賦課金」(再生可能エネルギー発電促進賦課金)によって支えられています。再エネ賦課金は電力会社から電気を購入するごとに、1kWhあたり3.36円(2021年度)を負担する必要があります。
この単価は年々上昇を続けており、現在の水準は電力会社に支払う電気料金の1割超にせまり、負担軽減を求める声も少なくありません。
今後予想される「未来」
太陽光発電の増加によって、今後起こり得る未来を予想します。
晴天時昼間の「電力」の価値が下がっていく
太陽光発電の導入が拡大していくことで、晴天時昼間の電力の取引価格がますます下落します。電気を買う場合はメリットとなりますが、太陽光発電設備を所有して売電収入を得る人にはデメリットとなります。
今後、卒FIT向けの売電価格に対して下落圧力が強まっていくことは避けられないでしょう。「自家消費」を増やすことで採算性を高めるニーズが高まっていくと思います。また、昼間の料金単価を安く設定した料金メニューも増えていくでしょう。
今後取り組むべきことは
「増えすぎた」太陽光発電に対して何をすべきか、対策を提案して終わります。
とにかく「昼間」の電力使用を促す
太陽光発電が増えた一方、それに対応した日本人の行動の変化は皆無と言えます。せっかく導入が増えた太陽光発電を活用することが出来ていない状況にあります。
晴天時の昼間に電力が「余って」しまっているわけで、そのようなタイミングで電気を使うよう促す政策を直ちに行う必要があります。
例えば九州で電気が余る昼間は、カーボンフリー電源(再エネ+原子力)が電源構成の90%以上を占める時間帯も珍しくありません。当然、そうした時間帯の電力はCO2排出量が少ないです。夜間など、太陽光発電が期待できない時間帯からの「利用シフト」を進めるだけでも、CO2排出量を削減することが可能です。
出力制御が減ることで再エネ発電の採算性が高まり、再エネの導入を更に促進する効果も期待出来ます。
消費者としてのメリットは見えづらいですが、自分が契約している電力会社のコスト低減に貢献できる(調達コストの安い時間帯に使ってもらえると儲かる)ので、巡り巡って値下げなどを期待出来るかもしれません。経済的メリットを目に見える形で欲しい場合は、昼間の料金単価が安い料金メニューか、市場連動型プランの利用を検討してください。
太陽光発電以外の再エネ電源の導入促進
固定価格買取制度を利用した売電の7割が太陽光発電に「偏っている」という話は記事前半で紹介したとおりです。今後の再エネ導入拡大の鍵は「太陽光以外」にあると言えます。
政府も洋上風力発電の導入拡大(2040年までに4500万kW)や、風力を始めとする再エネ発電の「適地」が多い北海道方面から需要地である関東への海底送電網の設置検討を進めています。これらを一歩ずつ前に進めていくことで再エネ導入の余地を拡大させることが出来ます。
蓄電技術の大幅な価格低減
太陽光発電でつくられた電力は、現在でも地域によっては余ってしまっていますし、将来的に多くの地域で、少なくない時間帯で「余る」ことが予想されます。しかし太陽光発電は夜間や、晴天でない場合は発電が出来ません。
そこで鍵となってくるのが、蓄電技術です。現時点では、蓄電池を含む蓄電技術のコストが非常に高いため、タダ同然の太陽光発電の電力を蓄電しても採算が取れません。大幅なコスト低減が必要です。
また、蓄電といわれると蓄電池を思い浮かべがちですが、以下の技術を利用することで「蓄電」も可能です。
- 電気自動車・PHV
- 蓄熱
- 水素
電動車に関しては、家庭用蓄電池よりも大容量なバッテリーを搭載しており、V2Hと呼ばれるシステムを利用することでその大容量の電池に貯めた電気を住宅に供給することが出来ます。
蓄熱に関しては、既に東京スカイツリーの地下などで導入されていますが、地下の巨大な水槽で主に深夜に冷水や温水を作って貯め、その熱を冷暖房などに利用する仕組みです。
水素に関しては、再生可能エネルギーの電力で水を電気分解して水素を作る取り組みです。水素は貯蔵や運搬が簡単なので、余った電力を使って水素を生成し貯めておき、必要な時に燃料電池で発電する(あるいは火力発電所で燃やす等々)ことが検討されていますが現状ではかなり高コストなので実用化には至っていません。
これらの技術の導入コストが下がることで、太陽光発電を活用してCO2排出量ゼロの電力を安定的に利用することが可能となります。
そう遠くない将来、太陽光発電を設置した家庭に蓄電池を設置すると、設置費用込みで電力会社から買電するより「安い」時代が訪れ、蓄電池の本格的な普及が始まると思います。