風力発電の問題点

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風力発電の「本当の」問題点は?


 欧州や中国で急速に導入が拡大している風力発電。既にデンマークでは供給の50%近く、イギリスでも24%をまかなう重要な電源となっていますが、日本ではわずか0.5%という有様です。


 そんな風力発電の問題点を、改めて整理した上で今後の課題を考えます。



風力発電の問題・課題


 まずは風力発電の問題点やデメリットとされている課題を挙げていきます。


騒音問題


 現在主流の2MW級(高さ約140m)の風車は、翼の先端部分が時速300Kmと新幹線の最高速度なみの速さで回転しています。そのため風切り音や、回転を受け止めるギアの部分から騒音が発生します。


 日本でも愛知県の男性が自宅から350m離れた風力発電の騒音を訴える訴訟を起こし、その件で騒音問題が世間に認知されることとなりました(住民側敗訴)


 人が暮らす場所から一定以上の距離をあけて設置する必要があります。



風力発電の騒音

景観を害する場合がある


 風力発電に適している場所は山の尾根であったり、海沿いの「目立つ場所」である場合が多いです。周囲からよく見えるため、圧迫感を与えたりもともとの景色を邪魔してしまう場合があります。


 

青山高原の風力発電所

青山高原の風力発電所で撮影

 景観というのは人によって感じ方が違うため、難しい問題です。
 私は日本最大の風力発電所である青山高原(三重県)に何度か足を運んだことがありますが、山中に風車が林立する光景を気に入りました。青山高原は風車目当てに足を運ぶ観光客もいるので、風車がある景観を観光資源化することも可能ですが、もともとの住民にとっては目障りになる場合もあります。


強風や落雷によるトラブル


 過去にさかんに問題点として取り上げられたのが風車への落雷による問題です。
 経産省の資料によれば、落雷によるブレード(翼)の破損は平成25年度に7件発生しています。年間数件〜10件程度で発生している問題です。


 

風力発電風車への落雷


 また、台風などの強風により風車が倒壊する事故も発生しています。
 風が一定以上強くなると、風車の翼の向きを変えて「風を逃がす」仕組みがありますが、設計以上の風が吹くと倒壊・破損する場合もあります。ただし、故障全体のうちわずか5%(NEDO調査)と確率は低いです。


 風力発電は故障が多いというイメージがありますが、稼働率は96.4%と高いです(年間3.6%は故障やメンテナンスで停止するという意味)


建設に時間が掛かる


 建設工事自体はそれほど難しいものではなく、工期は1基あたり3〜4ヶ月と「短い」です。


 しかし風況の調査(適した場所を探す)や環境アセスメントに長い時間が掛かるため、それらを含めると建設に長い時間が掛かります。環境アセスメントだけでも日本では4年以上掛かっています(1.5〜2年程度に短縮するのが政府目標)


 長い時間が掛かるということで、その分コストも高くなってしまいます。


風車は外国製のシェアが高い


 風車の世界シェアを見ると、トップ10に日本企業は入っていません。三菱重工や日立製作所が風車をつくってはいますが、シェアを伸ばすことが出来ていない状況です。


風力発電の世界シェア/2016年
メーカー名 シェア
Vestas デンマーク 15.8%
GE アメリカ 12.1%
Goldwind 中国 11.7%
Gamesa スペイン 7.5%
Enercon ドイツ 6.8%

 そのため、日本国内に建つ風車についても「外国製」のものが多く、年によって大きく変動しますが日本企業のシェアは平均で4割にも満たない水準です。


 国内の産業振興という点では必ずしも貢献度が高くないことは欠点と言えるでしょう。また、今後世界で風力発電が急速に普及していく中で、我が国がその利益を取り込むことが出来ないという点は大きな課題と言えます。


 ただし部品単位で見れば、例えば風車用のベアリングなどは日本企業が世界で一定のシェアを持っています。


 

風力発電システムは海外企業が強い


鳥などの生態系に影響を与える


 猛禽類を始めとした鳥が風車の翼に衝突して死ぬ「バードストライク」が発生します。中には絶滅危惧種に指定されるオジロワシなどの希少な鳥類も含まれており、懸念の声があがっています。北海道では2017年11月時点で46羽のオジロワシの死亡が確認されています(猛禽類医学研究所まとめ)



バードストライクの瞬間(環境省撮影)

 風車の塗装を工夫する、(運動会で使うような)ピストルの音を鳴らすといった対策が検討されてきましたが、重要な生息地近くに風車を設置しないことが根本的な対策と言えるのではないでしょうか。


導入に適した地域に偏りがある


 北海道・東北に「適地」が多いため、そこに風力発電が集中することでまた別の問題も発生する可能性もあります。例えば北海道の場合は本州と電気をやり取りする送電線の容量が小さいため、風力発電の導入が爆発的に増えることで道内の電力供給に悪影響を与える可能性もあります。


 例えば国内発電量の50%を風力発電でまかなうデンマークでは、発電した電気の40%を国際送電網に流して「輸出」しています(ちなみにデンマークの停電時間は欧州で最も少なく、日本よりも少ない)


 北海道・東北についても、関東や西日本方面に電気を「輸出」できるようにする仕組みを整えなければ、せっかく作った電気を有効に使うことが出来なくなる恐れがありますし、既に大手電力会社が送電網の空きが無いことを理由に風力発電の接続を「拒否」する事例も発生しています。


 

風力発電の適地は北海道・東北に多い


適地に建てづらいという問題


 これまで紹介してきたように、風力発電には騒音や景観、バードストライクなどの問題があり「どこにでも建てられる」ものではありません。おまけに年間を通じて強い風が吹く場所でないと発電することが出来ません。


 適地が自然公園などと重なっている場合も少なく無い、という問題があります。


 とはいえ、国定公園や希少鳥類が生息する鳥獣保護区、人家から近い場所などを除いても日本国内には原発283基分に相当する283GWの陸上風力発電の「導入余地」があると環境省が報告しています。洋上風力については1573GWと莫大な量を導入することが出来ます。


 風力発電の設備利用率を20%としても、風力発電だけで日本全体で必要な電力の3.5倍をまかなうことができる(安田陽:世界の再生可能エネルギーと電力システム 風力発電編ので風力発電には大きな可能性があると言えます。


発電コストが高い


 世界では導入増加にともない、風力発電による発電コストは低下を続けています。資源エネルギー庁の資料によれば、2014年時点で10円/kWhを切る水準で、またNEDOの資料によると2016年時点では8.8円/kWhとなっており、電源としての競争力を高めつつあります。


 一方、日本では発電コストの低減がうまく進んでいません。
 資源エネルギー庁の2018年1月時点の資料によれば日本国内での風力発電の発電コストは13.9円/kWhと、世界平均の1.6倍という水準です。


 

日本の風力発電は導入費用が高い


 その理由として挙げられるのが導入費用の高さです。風車自体の価格や工事費が海外主要国と比べて1.4〜1.7倍と高止まりしています。それに加え運転維持費も2倍以上の開きがあります(いずれもNEDO調査)


 発電コストが9円程度まで下がれば火力発電と「同等」になるため、こうしたコストの低下が急がれます。


世界では爆発的な普及が見込まれている


 問題点を抱えつつも、現在世界では風力発電の爆発的な普及が進んでいます。
 この記事でも何度も紹介したように、デンマークでは既に発電量の50%を以上が風力発電が担い、2035年には84%にまで拡大する方針を掲げています。


 米国でも、2020年には再エネの発電量が原子力発電を抜くという政府機関の予測もあり、風力発電の導入が急ピッチで進んでいます(米国では太陽光が低調な分、風力発電の導入が多い)


 再生可能エネルギーは「安定性が無い」と批判されることが多いですが、太陽光と違って夜も発電できるほか、風の吹き方を予想することで発電量の想定もある程度可能であるとされています。コスト低減に取り組むことで、日本でも導入を増やしていくべきでしょう。




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