多く使った方が「割高」になる日本の電気料金
「まとめ買い」で多く買った方が割安になる商品が多い中、電気は多く使えば使うほど割高になるという事実があります。なぜ割高になってしまうのか、その原因と対策を解説します。
目次
使うほど「高い」理由は3段階制料金プランにある
使うほど「高い」原因は料金体系にあります。
3段階制料金プランとは
日本の大手電力会社と、多くの新電力の家庭向け料金プランは「3段階制料金」という形式をとっています。
この料金プランは、1段階目の1〜120kWhまでが○円、2段階目の121〜300kWhが△円、3段階目の300kWh超がxx円という形で、使用量が増えるごとに料金単価が変わるものです。
段階が上がるごとに料金単価が下がっていくのだろう、と思いきや実はその逆で使用量が増え段階が上がるごとに料金単価が上がるような設計がされています。東京電力エナジーパートナー「従量電灯B」という標準的なプランの料金単価を見てみましょう。
使用量 | 料金単価 |
---|---|
〜120kWh | 19.88円/kWh |
121〜300kWh | 26.48円/kWh |
301kWh〜 | 30.57円/kWh |
1段階目と3段階目では1.5倍もの価格差があり、これが「使うほど高い」原因です。
なお、勘違いしやすいですが例えば月の使用量が350kWhの場合、350kWh丸々3段階目の料金単価(東電なら30.57円)が適用されるのではなく、1〜120kWhは19.98円、121〜300kWhは26.48円、301〜350kWhは30.57円で計算されます。
多く使うお客さんほど利益率が高い
電力会社にとって、月に300kWh以上を使用するお客さんは利益率が高い「優良顧客」です。
例えば東京電力(従量電灯)で月400kWh使った場合の1kWhあたりの平均単価(基本料金除く)は25.33円/kWhですが、半分の200kWhを使った場合は22.52円/kWhと10%以上も安くなってしまいます。
2000年から段階的に電力自由化が進められ競争が激しい法人向けの電力販売は利益率が低く、大手電力会社の利益の7割、東電では9割が家庭向けの販売によるものとされています。2・3段階目の料金単価が電力会社を支えていると言っても過言ではありません。
1段階目の料金単価でおさまる月120kWh以下(一人暮らし世帯などが該当するでしょう)は、利益率が非常に低く、場合によっては赤字になる場合もあると言われています。電力自由化で参入した新電力の中には、使用量が少ない場合は大手電力よりも割高になる料金体系を採用しているところがあります。
オイルショックを契機として導入された
スーパーに行くと小分けされたものよりも、まとめ買いの商品の方が単価が安くなることがほとんどです。ではなぜ、電気はその逆なのか。その秘密はオイルショックにあります。
1970年当時、日本の電力は59%が石油火力発電によってまかなわれていました。それまで石油は安価に大量に輸入できる資源でしたが、オイルショックを機に価格が一気に高騰し状況が一変しました。
そこで、節電を促す目的で1974年に導入されたのが現在の3段階制の電気料金プランです(逓増料金制度) 当時は全国平均で56.82%と大幅な電気料金の値上げとなりましたが、家電製品を多く持たず最低限の生活を送っている人の値上げ幅はそれよりも小さなものとなったはずです。
ちなみに、東京電力の資料によれば1975年当時の一般家庭のひと月の平均使用量は171kWhとされており、平均的な世帯は2段階目の料金単価に収まることが分かります。ですが近年の平均は家電製品の普及により平均が250〜300kWh程度まで増加しているため、3段階制料金プランは時代に即していないとの声もあります。
また、使うほど割高になるという知識も世間で必ずしも知られているとは言えないため、導入目的である節電を促す効果の点でも再構築が必要と言えるのではないでしょうか。
3段階でない料金プランも登場
電力自由化を機に多種多様な料金プランが登場しています。3段階制でない料金プランも増加しています。
料金単価が一定 1段階制料金プラン
使用量に関係無く、一律の料金単価を採用している料金プランが増えています。こうしたプランは基本料金を0円としている場合が多い傾向があります。また、料金単価は大手電力会社の従量電灯プランの2段階目と同程度の価格設定になっていることが多いです。
大手電力の3段階目の料金単価と比較すると割安であるため、電気を多く使う世帯でお得に利用できるプランと言えます。一方、一人暮らしのように使用量が少ない場合は、こうしたプランを選ぶことで電気代がかえって割高となる場合があります。
変則的な料金単価の料金プランも
「3段階」で料金単価が上がっていくのが日本のスタンダードな電気料金プランですが、変則的な料金体系をとっているところもあります。
例えば中部地方で電気を供給している東邦ガスの電気料金プランは、3段階ではなく10段階制の料金プランです。使用量が増えるごとに料金単価が高くなるのは他社と同じですが、10段階で料金単価が上がっていく仕組みです。記事執筆時で私が把握している401社・3958プランの中でもこの10段階というのは圧倒的に多いです。
また、熊本電力の関東向けプランは以下のような変則的な料金体系です。
使用量 | 料金単価 |
---|---|
〜200KWh | 23.83円/kWh |
201〜300kWh | 17.88円/kWh |
301kWh〜 | 23.85円/kWh |
3段階ではありますが、区切りが200kWhになっていたり、2段階目がなぜか安く設定されています。使用量が少ない顧客に対しても一定の利益率を確保しつつ、使用量が多い場合に東電と比較して大幅に安く見えるように設計されているものとみられます。
使用量が多い場合に電気代を安くする方法は
使用量が多くなると割高になる電気代。安くする方法を紹介します。
割安な料金プランに変更する
電力自由化で参入した新電力会社は、特に3段階目の料金単価を割安に設定した料金プランを提供しています。もともと利益を多く取れる部分なので、新規参入の企業がこの部分を安く提供するのは簡単なことです。
使用量が多い4人世帯では、地域によっては大手電力会社よりも年間2〜3万円安くなる料金プランもあります。以下の料金シミュレーションで探してみてください。
使用量を減らす 節電こそが最強の節約
使用量が多いと割高なので、減らせば割安になります。
記事前半でも紹介したように、同じ料金プランでも月400kWh使った場合と200kWhの場合では、平均料金単価が10%以上の差になります。もちろん使用量を半分に減らすことは難しいですが、節電への努力に対する成果は、使用量が多い世帯ほど大きなものとなります。
また、昨今は電気代に加えて1kWhあたり約3円の「再エネ賦課金」が発生します(どの電力会社でも同額) 再エネ賦課金は年々上昇しているので、節電による節約効果はより大きなものとなります。