市場連動型プランを実際に使ってみて感じたこと。
これまでに10社の新電力を代わる代わる利用してきた私が、今回初めて契約したのが「市場連動型」の電気料金プランです。実際に1ヶ月少々利用して感じたことを赤裸々に綴ります。
目次
市場連動型プランとは
本題に入る前に、市場連動型の電気料金プランについて簡単に解説します。
一般的な電気料金プランは、予め提示された料金単価に基づき料金が請求されますが、それに対し市場連動型プランは予め固定の単価というものがありません。
市場連動型プランはその名の通り、卸電力取引所での電力の「取引価格」に一定額の手数料などが加えられた金額を電気代として支払います。取引価格は30分ごとに変動するため、「高い」時間帯に電気を使うと電気代が高く、「安い」時間帯に使えば安くなります。
取引価格は前日までに確認出来るので、その価格に従って自分たちの行動を変えることで電気代を「安く」することが出来る料金プランです。
市場連動プランのために「やったこと」
まずは我が家で市場連動型プランを契約し、市場連動型プランを安く使うために「やったこと」を紹介します。
家電製品の利用時間帯の調整
冒頭でも紹介したように、市場連動型プランは高い時間帯に電気を使えば高く、安い時間帯に使えば安くなる料金プランです。我が家では一部の家電製品を使用する「時間帯」を変更しました。具体的には以下の2つの家電製品の時間帯を工夫しています。
- ドラム式洗濯機(1日1回)
- 食洗機(1日1〜2回)
いずれも私の支配下にある家電製品です(私が洗濯と食器洗い担当)
私が暮らしている東京電力エリア、2020年8月現在は概ね深夜0〜朝9時頃の取引価格が安いため、この時間帯にあわせてドラム式洗濯機と食洗機を使うように心がけました。タイマー設定をしたり、あるいは0時になるのを待ってスイッチを手動で押して稼働させています。
ちなみに、市場連動型プランを使う以前は食洗機は食後すぐ、ドラム式洗濯機は朝起きてから稼働させていました。
市場連動プランのために「出来なかったこと」
続いて、市場連動型プランを安く使うためにやりたかったけど「出来なかったこと」を紹介します。
家族の協力は一切得られなかった
残念ながら我が家では、市場連動型プランを利用するにあたって他の同居家族の協力は一切得られませんでした。何度か「この時間帯はもの凄く高いから」と言ったこともありましたが、スルーされたので諦めました。
真夏にエアコンを切るのは無理
ちょうど7月中旬から1ヶ月少々、市場連動型プランの利用を継続しています。最高気温が35度を超える日もしばしばありました。
電力の市場価格は冷暖房で電力需要が増えるタイミングで「高騰」します。安い時間帯(約5円/kWh前後)の8倍あるいはそれ以上の価格を数時間にわたり付ける日も珍しくありません。
取引価格が高騰する中で電気を使うと電気代が高くなるのが市場連動型プランのデメリットですが、とはいえ外気温が30度を超える中で冷房を切るのは無理でした。一度だけ試したこともありましたが、15分で断念しました(室温計が32度を表示していた)
家電を「代替」できるものを使う
例えば普段、電気ケトルでお湯を沸かしている家庭であれば、取引価格が高騰するタイミングではガスコンロでヤカンでお湯を沸かすといったことが対策として考えられます。
我が家でも何か家電製品を代替する方法は無いかと考えてみたところ、トースターを魚焼きグリル(ガス)で代替出来そうだと気づきました。取引価格が高騰する夕方の時間帯にトースターではなく魚焼きグリルを使ってほしいと調理担当の家族に頼んでみましたが、受け入れられませんでした。
使ってみて良かったこと・メリット
市場連動型プランを使ってみて初めて気づいた、メリットを紹介します。
節電・節約意識が大きく高まった
市場連動型プランを契約してからは、一日に何度も「取引価格」を確認するようになりました。すると不思議なことに、以前よりも電気代が非常に気がかりとなり、節電意識が大幅に高まりました。
価格が「高い」時間帯はもちろんですが、出来るだけ電気を使いたくないと思うようになったのが大きな変化だと感じています。例えば以前は新聞を読みながらBGMとしてテレビを付けていましたが、市場連動型プランを契約してからはテレビを消して音楽を流すなどしています。照明の消し忘れにも敏感になりました。
使ってみて不満に感じた点とデメリット
続いて、利用していて感じる不満点やデメリットを紹介します。
価格を毎日チェックするのは面倒
高い時間帯を避けることが市場連動型プランを安く使う鉄則と言えますが、そのために取引価格を毎日何度も確認するのはどう考えても面倒です。私はいつもスマホで確認していますが、価格を確認するために月に数十分どころではない時間を費やしていると思います。
数週間ほど利用してなんとなく傾向は掴めてきた(深夜0時をまわると途端に安くなる、夕方に高騰する)ので、市場連動型プランの利用を開始した当初と比べるとチェック頻度は落ちていますが、それでも日に何度か確認しています。
例えばGoogle NestHubのようなスマートディスプレイに価格を表示しておくようなアプリケーションなどがあれば、もう少しストレスが軽減されるのではないかと思います。また、家族にも情報を共有しやすく、協力を得やすくなるでしょう。
電気を使うことにストレスを感じる
電気代への意識が高まり、節電意識が高まったとメリットのところで紹介しましたが、裏を返すと電気を使うことへの「ストレス」が高まったともいえます。
とりわけ、価格が高騰している時間帯に電気を使うことに対しては、ためらいを感じます。気温30度を超えている中でも、「冷房消せないかな・・」と考えてしまいます。
節約メリットが見えづらい
高い時間帯に使用を控え、安い時間帯に使えば電気代が安くなるというのは何度も紹介しました。その「努力」の成果が見えづらいという問題点もあります。
例えば高騰している時間帯に使ったせいでいくら高くなったとか、逆に安い時間帯に使ったことでいくら安くなったとか表示する機能があれば、モチベーションを維持しやすいのではないでしょうか。
私がこれまでに契約した10社の新電力の中で数社は、大手電力会社のプランと比較して毎月いくら安くなったのか表示する機能がありました。節約メリットを目で見て確認できるので、満足度が高まる仕組みだと思います。
睡眠時間が減少した
我が家の食洗機にはタイマー機能がありますが、「4時間後」に運転をスタートするタイマーしか設定できません。例えば深夜2時から電気代が安い日があるとして、22時にタイマーを掛けそびれると手動で深夜2時から食洗機をスタートさせなくてはなりません。
本当は深夜1時には寝られたのに、「安い時間帯」を狙うために睡眠時間を30分あるいは1時間遅くしてしまった、ということがこれまでに何度も発生しており、睡眠不足の原因となっています。
電気代はどうなったのか
最後に、電気代は実際のところどうなったのか、というのを我が家の請求書をベースに解説します。
「最安プラン」より更に千円安かった
結論から言うと、我が家の市場連動型プラン初月(2020年7月17日〜8月16日)の電気代は、固定料金単価で「最安」のプランと比較して更に約1000円安く済みました(388kWh使用:燃料費調整込みで計算)
東京電力エリア・60A契約・388kWhの使用で、当サイトの料金シミュレーションにて記事執筆時点で掲載している全439プランの中で最も安い「ピタでん」と比較しても、更にひと月で約1000円安く済みました。東電と比較すると2650円も安いです。
なお、市場連動型プランは事前に料金単価を想定することが出来ないため、当サイトの料金シミュレーションには掲載していません。
ただし新型コロナによる追い風参考記録
固定料金単価で「最安」のプランより更に1000円も安ければ、安いことに間違いありません。ですが注意すべき点もあります。
2020年現在、新型コロナウイルスの感染拡大により経済活動が停滞しており、それに伴い電力需要も減少しています。三菱総研のしらべでは電力需要が例年と比べて10%減とされています。
電力の取引価格は需要と供給のバランスによって上下します。需要が減少すれば取引価格が安くなります。実際、卸電力取引所での平均取引価格は前年と比較して約3円安(2020年6月9日電気新聞)と大幅な安値で推移しています。
「最安より更に1000円安くなった」というのは新型コロナの影響による追い風参考記録と言うべきでしょう。とはいえ、経済活動の停滞(=電力需要の減少)はしばらく継続することが予想されるため、市場連動型プランの優位性は2020年内は続くのではないでしょうか。2021年以降はどうなるか分かりません(早くコロナが収束することを祈るばかりです)
不便さ・ストレスと天秤に掛ける必要も
電気代は固定料金単価の最安プランより更に1000円安くなったものの、その対価として色々なものを失っている感が否めないのも事実です(睡眠時間減少による仕事の能率の低下等)
努力を惜しまず電気代をとことん節約したい人、あるいは自宅に蓄電池を設置している人には市場連動型プランは選ぶ価値のあるものになると思います。
市場連動型プランの未来
現状、日本の一般家庭ではストレスが小さくないと言わざるを得ない市場連動型プランですが、今後発展していく新たな技術によって有意義なものとなる可能性は低くないと言えます。
例えばダイレクトパワー社が2020年に発表した蓄電池のAI制御システムは、市場連動型プランの安い時間帯に電気を溜め込み、高い時間帯に放電する制御を自動で行います。ユーザーの「努力」に頼らない、ストレスフリーな仕組みといえます。
また、電力が「余っている(≒取引価格が安い)」タイミングでエコキュートを自動制御してお湯を沸かす仕組みも、既に日本国内で一部が実用化されています(中部電力・デンソー)
こうした技術と市場連動型プランの導入が進んでいくことで、電気を社会全体で「賢く」「無駄なく」使える社会が実現する可能性があります。