2025年1月公表の電力需要見通しを解説
2025年1月に電力広域的運営推進機関が公表した2034年度までの電力需要見通しを元に、今後起こり得る問題を解説します。
目次
需要減のはずが一転して増加見通しに
2025年1月に電力広域的運営推進機関が公表した電力需要見通しを元に解説します。
増加が見込まれる日本の電力需要
日本の電力需要は少子化や省エネ化に伴い、長期的に減少していく見通しがこれまで定説でした。しかし2024年1月に示された見通しでは一転して需要が増加に転じるとされ、驚きの声が上がりました。更に翌2025年1月に公表された見通しでは、2030年度時点の見通しが前年公表値から更に約1%上振れる見通しとなっています。
特に北海道エリアの最大需要が2025年度から34年度にかけて10.5%増、東京電力エリアが7.1%増(いずれも夏季)と大幅な増加が見込まれており、東日本エリアの電力需要が大幅に増加する見通しとなっています。
需要増加の原因は?
電力広域的運営推進機関は公表資料の中で「データセンター・半導体工場の新増設に伴う個別計上値」という項目を設け、データセンターと半導体工場の新増設による影響が大きいことを指摘しています。
とりわけ2034年度までの増加分のうち、データセンターによる増加分が半導体工場による増加分より6.2倍大きいとしています。電力需要増加はAI利用の活発化を中心としたデータセンターによる影響が大きいと言えます。
電力需要増加が招く様々な問題
電力需要の増加で生じる問題を指摘します。
東日本エリアの電力不足
これまで電力需要は減少ないしは横ばいでの推移が電力業界の定説でした。また近年は脱炭素化による石炭火力発電所や石油火力発電所の休廃止も相次いでおり、電力の供給力は削減される傾向にありました。
そのような環境下から一転して需要が増加するとの見通しに転換したことで、今後数年で特に東日本エリア(北海道・東北・東京電力エリア)での電力不足のリスクが高まることが懸念されます。
前述のとおり、電力需要の増加はとりわけ東日本エリアで大きいとされています。一方、東日本エリアでは原子力発電所の再稼働の停滞もあり、足元でも電力需給がタイトです。例えば猛暑に見舞われた2024年7月8日には東京電力エリアの電力予備率は安定した電力供給に最低限必要とされる3%近くにまで低下しています。
需給に余裕が無い中で需要が増加することで、電力不足懸念が高まります。
発電所の増設が進めばよいのですが、米国など主要先進国でも同様にデータセンターによる電力需要の増加が見込まれており、ガス火力発電用のタービンの不足が日経新聞でも報じられています。また変圧器など電力供給に必要な設備の需要増加により納期が伸びており、供給力の確保は一筋縄ではいかない状況です。
電力取引価格の高騰が増える
電力需給がタイトになることで、電力取引価格が高騰する場面が増加することが予想されます。夏・冬の夕方の電力取引価格の水準が今後切り上がっていくでしょう。
電力取引価格の価格変動が大きくなることで、とりわけ自社で発電所を持たない中小の新電力の経営が悪化する可能性があります。
東日本エリアで市場連動型の料金メニューを利用している方は、少なくとも2026年度頃までには市場連動型でない料金プランへの変更をおすすめします。現在は市場連動型でない料金メニューも今後の見通し悪化により市場連動型に転換するリスクがあるので、料金体系の変更にも要注意です。
西日本への産業移転が増加する
電力需給に余裕が無い東日本エリアと比較して、北陸・中部電力エリア以西の西日本エリアでは原子力発電所の再稼働が進んでいることで電力需給に余裕があります。中国エリアでは2034年度までに需要が8.2%増加する見通しですが、関西では1.2%増、四国にいたっては7.8%減少する見通しであり、今後も需給に余裕がある状況が続くでしょう。
電力需給に余裕が無く、また電気料金が高い東日本エリアから西日本エリアへの移転の動きも徐々に加速する可能性があります。
膨大な電力を使用するデータセンターには特別高圧による送電が必要です。特別高圧による送電には大規模な変電所や送電線の確保が必要となるため、どこでもすぐに大規模なデータセンターを建設できるわけではありません。データセンターで有名な千葉県印西市は供給面での条件が整っていることからも、データセンターが集中する理由となっています。なお印西市の需要だけで既に山梨県全体の電力需要と同等に、今後更に山梨県の2倍にまで需要が増加する見通しです。
電気自動車の増加も今後の懸念点
2024年頃から多くの国で失速が顕著な電気自動車ですが、2027年前後から国産車メーカーが続々と電気自動車を発売します。現在、大規模な電気自動車工場が国内でいくつも建設中です。現在は下火になっている電気自動車ですが、工場が稼働し生産が本格化する2027年頃から国内でも急速に普及が拡大すると予想しています。
電気自動車を信奉している人の中には、電気自動車は電力需要が少ない深夜に充電することで電力需給に悪影響を与えないと主張している人もいます。しかし今後電気自動車が大衆化していく中で、深夜に充電しないユーザーの割合・実数とも増加していくでしょう。帰宅後すぐに充電を開始することの方が自然だからです。電気自動車の普及が今回の需要見通しに含まれているとの記載は無いため、今後のリスク要因となりそうです。
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