原発事故処理水の海洋放出は安全なのか
東京電力福島第一原発から原発事故処理水の海洋放出が始まります。「処理水」は本当に安全なのか、事実を列挙しながら分かりやすくまとめます。
目次
原発事故処理水とは
2011年3月に事故を起こした東京電力福島第一原発周辺では、地下水や雨水が高濃度の放射性物質によって汚染されています。高濃度の放射性物質を含む「汚染水」はALPS(アルプス)と呼ばれるシステムで処理を行い浄化します。浄化した後の水を「(ALPS)処理水」と呼んでいます。
この「処理水」には、取り除ききれなかったトリチウムと呼ばれる放射性物質が残っています。トリチウムを取り除くことが出来ないため、処理水はこれまで原発の敷地内に設置されたタンクに大量に保管されてきました。
原発事故処理水は安全なのか
この処理水を、海に放出することが決まりました。トリチウムが残った水を海に放出しても危険は無いのか、要点を整理します。
世界中で運転中の原発から絶えず放出されている
トリチウムは世界中で正常に運転している原子力発電所などから、海などに放出されています。主な原子力施設からの年間の液体放出量は以下のとおり(経産省資料より作成)
所在国 | 施設名 | 放出量 |
---|---|---|
フランス | ラ・アーグ再処理施設 | 約1京3700兆ベクレル |
イギリス | セラフィールド再処理施設 | 約1540兆ベクレル |
カナダ | ブルースA,B原発 | 約892兆ベクレル |
中国 | 大亜湾原発 | 42兆ベクレル |
台湾 | 馬鞍山原発 | 約40兆ベクレル |
韓国 | 古里原発 | 約36兆ベクレル |
日本 | 福島第一原子力発電所 (事故前2010年) |
約2.2兆ベクレル |
日本 | 福島第一原子力発電所 (放出計画) |
22兆ベクレル(上限) |
ALPSで処理しきれないトリチウムは、世界中の原子力施設から海などに放出されています。現在の計画では年間22兆ベクレルを上限として放出する計画ですが、これは東アジア各国の原発から放出されているトリチウムの量と比較しても多いと言えるものではありません。
そもそもトリチウムは、放射性物質と聞くと怖いものだと感じる人が多いと思いますし、私も最初は不安を感じましたが、自然界でも発生し人間生活の中で身近に存在するものです。日本では雨水に年間220兆ベクレルのトリチウムが含まれていますし、水道水にもトリチウムは含まれています。基準内であれば危険性はなく、健康被害を生むリスクは無いとされています。
例えば私も現地を訪れたことがありますが、国内のとある原子力発電所の「すぐ目の前」には複数の海水浴場があります。運転中の原発からはトリチウムが放出されていますが、目の前に海水浴場を開設しても問題は無いというわけです。毎年多くの人が原発の目の前にある海水浴場を利用しているわけですが、健康被害が発生したという話を聞いたことがあるでしょうか?
また、処理水に含まれるトリチウムの量は、世界保健機関が飲料水に要求しているレベルをも下回っています。つまり適切に処理された処理水は飲んでも浴びても問題は無いというわけです。
WHOの飲料水の基準 | 処理水放出基準 |
---|---|
10,000 Bq/L | 1,500 Bq/L |
福島第一原発付近海域の放射性物質の濃度については処理水ポータルサイト(東電)で随時公表されています。
世界各国が放出計画を確認済み
福島第一原発からの処理水海洋放出の計画は、日本の政府だけでなく国際機関や各国も確認しています。
国際原子力機関(IAEA)が検証した上、その検証結果を韓国やオーストラリア、ニュージーランドなどの国々が「信頼する」と表明しています。
一方で中国政府は処理水の海洋放出に反対し、他国にも反対に同調するよう根回しを行っているとされていますが、反対の声は中国の思惑通りには広がっておらず、その点からも処理水の海洋放出計画は国際的に妥当なものであることが分かります。
放出が終わるまで国際原子力機関が常駐する
直近でも柏崎刈羽原子力発電所で耳を疑うような不祥事(他人のIDを使用し中央制御室に作業員が出入りする等)を起こしている東電に対して、不安を持つことは至極当然のことであり、私も不安を覚えます。
ですが処理水放出が「最後の一滴まで完了」するまでの間、国際原子力機関IAEAが「原発構内に留まる」としており、国際機関による監視が続きます。
「放出への懸念や疑問は一気に解決できないが、福島のこの地でみなさんと共存することを約束する。処理水の最後の1滴が安全に放出し終わるまでIAEAは福島にとどまる」と述べ、現地で安全性の評価を続けていく考えを示しました。
引用元:IAEA事務局長 処理水放出終了までIAEAは福島に常駐(NHK)
東電を信用することは難しい部分もあると思いますが、国際機関が監視を行っており「安全である」という前提は十分に保たれるものと理解しています。
停電などのトラブル発生時には緊急遮断弁で放出を停止する仕組みや、設備が再び津波による被害による深刻な影響を受けないよう防潮堤内に設置するなどの工夫も取られています。
復興を着実に進めるために必要なこと。
「放射性物質」と聞くと恐怖を感じてしまいますが、実際には飲用できる基準を満たしたものが、飲用できる水準で含まれた水を海(沿岸から1Km離れた海中)に放出するという話です。
また、飲用できない危険な物質が含まれてしまうなどのトラブルが生じないよう、国際機関も常駐して監視に当たるため、その点でも信頼性は十分に担保されるでしょう。
処理水を保管しているタンクは日々増え続けており、福島第一原発構内を埋め尽くし廃炉作業の妨げとなっています。処理水を適切に放出することが、復興をより円滑にそしてスピーディーに進めていく上で欠かせません。
「放射性物質」を含んだ水を放出する、と言われると少なくない人が恐怖を感じると思います。この記事を書いた私自身、処理水の安全性について納得するまでに数週間の時間を要しました。また、処理水の安全性について理解・納得できた時点からは、その安全性が担保されるかという点に対しても不安を持ちましたが、時間を掛けてこの記事に記した上記の結論に達しました。以下の参考サイトもご覧になりながら、処理水の海洋放出について理解を深めてみてください。
- みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと(経済産業省)
- 処理水ポータルサイト(東京電力ホールディングス)
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