「脱ロシア」がそう簡単には進まない理由
ウクライナ侵攻という許されざる行為に及んだにも関わらず、欧州の天然ガス調達の「脱ロシア」は順調に進む気配がありません。その背景にある事情を、複数の要素に噛み砕いて解説します。
目次
脱ロシアがすぐには実現しない理由
天然ガス調達の脱ロシアが遅々として進まない背景にある事情を解説します。
これまで依存比率が高すぎた
EU全体では天然ガスの約4割をロシアからの輸入に頼っています。これが急激な「脱ロシア」を進める上で大きな障壁となっていることは言うまでもないことです。
欧州ではこの10年程度の間、脱原子力や脱石炭火力を進めていく裏でロシアからの天然ガス調達の割合を増やしていました。そんな矢先に起きた今回の緊急事態と言えます。
日本では東京電力福島第一原発事故により、国内の原子力発電所が一時すべて稼働を停止しました。事故前の2010年度の原発依存度は28.6%です。28.6%の発電所が稼働を停止しただけでも、急激な電気代の上昇と電力危機とも言われる電力不足(2011年夏など)が生じたわけで、2022年の欧州が直面している事態は2011年の日本が直面していたエネルギー供給危機を遥かに上回ると言えます。
ロシア以外の産地での生産急増が難しい
欧州はロシア以外の産地からの天然ガスの調達を増やそうとしています。ですがそれは短期間の間に実現することは不可能と言えます。
例えば比較的小回りの効く米国のシェールガスの場合、掘削許可から実際に天然ガスの生産が可能となるまでに数ヶ月以上の時間が掛かると言われています。
大規模なガス田プロジェクトの場合、開発に10年単位で時間が掛かります。
経済制裁の緩和による輸出拡大が期待されるベネズエラや、核合意の実現への期待が高まっているイランについては設備の老朽化などの問題を抱えており、ロシア産を全て代替できるほどの量を確保するには数年単位で時間が掛かると言えます。
欧州では北海油田でのガス生産が行われていますが、脱炭素化の流れを受けて2019年頃から新規探鉱の停止を打ち出す国が相次いでいました。すぐさま生産を増やすことは難しいでしょう。
ガスの輸送にもボトルネックが
生産面ばかりに注目がいきがちですが、ガスの輸送にも大きな課題があります。
欧州では天然ガスの輸入・輸送をパイプラインに依存しています。パイプラインは一度敷設すれば天然ガスを気体のまま安価に大量に運ぶことが出来ます。欧州のガスの約4割がロシアからのパイプラインによる輸入です。
一方、日本や台湾などはパイプラインで他国と接続していないため、天然ガスを船で運んで輸入しています。船で運ぶ際に体積を小さくするため、気体の天然ガスをマイナス162度以下に冷却して液体の状態で運び、日本の港に下ろした後に再び気体に戻す作業を行います。
LNGを運ぶにはLNG船と呼ばれる船が必要となりますし、産出国側では気体のガスを冷却して液体にするLNG輸出基地、また輸入する側の国にはLNG受入基地などの設備が必要です。パイプラインを蛇口をひねれば出てくる水道水と例えるなら、LNGは配達員が一つ一つ手で運ぶウォーターサーバーか、あるいは宅配の冷凍食品といったところです。
スペインなどにLNGの受入基地が存在しますが、欧州はこれまでガス消費量の1割程度しかLNGによる輸入を行っていません。ロシア産の4割の穴を埋めるには欧州にLNG基地を大幅に増やす必要があるほか、産出国側でもLNG輸出基地を増やし、更にLNG船も大幅に増やす必要があると言えます。
ですがLNG船の発注から就航までに2年以上、LNG受入基地の工期も3年以上かかると言われており、ロシアからの輸入をLNGによる輸入で代替するには最短でも3年以上は掛かることになります。2024年のパリ五輪には確実に間に合いませんし、28年のロサンゼルス五輪までにはなんとか道筋が見えるかなというイメージです。
「欧州」の中でもロシア依存度に濃淡がある
ひとくくりに「欧州」といっても、ロシア依存度は国によって大きく差があります。各国の天然ガス輸入のロシア依存度を紹介します(2020年)
国名 | ロシア依存度 |
---|---|
北マケドニア | 100% |
ボスニア | 100% |
モルドバ | 100% |
フィンランド | 94% |
ドイツ | 49% |
イタリア | 46% |
フランス | 24% |
イギリス | 5.2% |
(参考)日本 | 8.8% |
ドイツやイタリアはガスの輸入量の半分をロシアに依存しており、万が一ロシアからの天然ガスの輸入が途絶する事態となった場合、極めて深刻な状況に陥ります。一方、イギリスなどは依存度が低いため影響は軽微です。イギリスはロシアからのエネルギー輸入禁止に前向きな姿勢を示しています(2022年3月10日時点)が、ロシア依存度の濃淡が各国の「姿勢」に影響を与えていると言えるでしょう。
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