電気自動車の急速充電が普及しづらい根本的理由

広告

「短時間で充電」を普及させるには高いハードルがある


 電気自動車の弱点としてしばしば指摘される充電時間の長さ。ですがこの弱点の克服には高いハードルを超えなくてはなりません。世間であまり指摘されていない視点から問題点を解説します。



電気自動車の急速充電の現状と将来の展望


 電気自動車の急速充電について簡単に解説します。


(現状)30分〜1時間でほぼフル充電が可能


日産リーフのフロント部分


 普通充電ではフル充電に16時間(日産リーフ40kWhモデル)掛かりますが、急速充電を使えば40分(CHAdeMO)でフル充電が可能です。


 数分で満タンになるガソリン車や燃料電池車と比べて、電気自動車は充電に時間が掛かる点が弱点として指摘されています。


全固体電池で更なる短時間化も可能に


 次世代型の蓄電池として世界で研究が進められている全固体電池は、従来のリチウム電池と比べて短時間での超高速充電が可能であると言われています。


 わずか数分で数百キロを走れるだけの充電が可能とも言われており、ガソリン車の給油と遜色ない充電時間を実現出来るとも言われています。


 また、東芝が手掛けるSCiBと呼ばれるリチウムイオン電池はわずか5分で容量90%の充電が可能とされており、全固体電池に限らず電気自動車側の急速充電技術は着実に進歩しています。


電気自動車の充電器


超高速充電の普及が難しい理由


 技術開発が進む超高速充電ですが、世間に広く普及するには高いハードルがあります。


車ではなく充電設備側にボトルネックが


 超高速充電に関しては、車側よりも充電設備の側に大きな課題があります。


 短時間で充電するには、一度に大量の電力が必要となります。電気自動車側で大量の電力を安全に受け入れることも当然重要と言えますが、一方で大量の電力を供給することにも課題があります。


急速充電を可能とするために必要なものは


 超高速での充電を可能とするためには、大容量の電力を供給する体制を整えることが必要となります。


 例えば日産リーフを40分でフル充電に出来るCHAdeMOの急速充電器で考えた場合、一般家庭で使う最大容量の40倍以上の契約容量が必要です。契約の区分も一般家庭用の「低圧電力」ではなく工場などで使う「高圧電力」となります。


 工場、大型商業施設、大きめのコンビニ、道の駅などではもともと高圧電力を契約していることが多いため問題にはなりにくいですが、高圧電力を新たに利用するにはキュービクル(変圧器)の設置と電気主任技術者の選定が必要です。既に高圧電力を利用している場合も、キュービクルの増設が必要となる場合もあります。


キュービクル

キュービクル

 電気主任技術者の外部委託には月数万円程度、キュービクルの設置には数百万円程度の費用が掛かります。


電気の「基本料金」が高くなる問題


 更に別の課題もあります。電気の基本料金の問題です。


 急速充電器は一度に大量の電力を使用するため、導入する際に電気の契約容量を大きくする必要があります。契約容量を大きくすると、それに比例して電気の基本料金が高くなります。


 150kWの急速充電器1台あたり、基本料金だけで月に20万円近い負担増(150kW×1292.5円→東電「高圧電力A」の場合)となります。5台、10台と並べると負担は非常に大きなものとなります。別途、電力量料金も1回数百円前後発生します。


 特に、今後実用化されるであろう「数分でほぼフル充電」を実現するような超高速充電器では更に大きな契約容量が必要となり、電気の基本料金が高額化することは避けられません。基本料金負担だけで1日1万円、となると充電サービス単体で採算を取るのは困難と考えられます。


ホンダ e

ホンダ e

一般家庭での超高速充電は非常に困難


 以上をふまえて、一般家庭での超高速充電器の導入は将来的にも非常に難しいと言えます。電気自動車の充電のためにキュービクルを置くのは明らかに不経済です。


 50kW程度の急速充電器1台であれば高圧電力の契約が必要ないので、家庭にも導入が可能と言えますが、充電器に必要な電力の基本料金だけで毎月5万円近い負担増となるため現実的ではないでしょう(基本料金0円の電気料金プランと組み合わせると可能・・?)


 急速充電器は本体価格も高価なので、電気自動車が普及した世の中が訪れても家庭での充電は普通充電がベーシックであり続けると思います。


解決策は「蓄電池内蔵充電器」


 電気の供給問題への解決策となりうるのが、蓄電池を内蔵した急速充電器です。既にJFEテクノスが実用化済みです(RAPIDAS−SRなど)


 この急速充電器は充電器内部に52kWhの蓄電池を内蔵しています。52kWhといえば日産リーフの上位モデル62kWhと下位モデル40kWhの中間くらいの容量です。


 内蔵した蓄電池を活用することで、電気自動車に対して100kWと高速大容量の充電を可能としています。充電器本体に対しては家庭用と同じ低圧電力で電力を供給するため、電気の基本料金を抑えながら、またキュービクルを設置せずに急速充電を提供することが可能です。


 JFEの資料によれば、100kWの高圧電力を契約した場合と比較して電気の8年間で基本料金を合計1270万円削減できるとしています(資料:PDF


 現在は蓄電池の価格が高価ですが、今後蓄電池が大幅に値下がりしていけば蓄電池内蔵急速充電器の本体価格も大幅に値下がりすることが期待できます。電力需要の平準化にも貢献するでしょう。




関連記事

地域別 電気料金比較表

電気料金比較シュミレーション

電力自由化Q&A

項目別おすすめ

人気の電力会社