電気自動車の普及は短期的に電力不足を引き起こす

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電気自動車が電力不足を引き起こすシンプルな理由


 電気自動車の普及は、短期的には「電力不足」の懸念を高める結果を招きます。そう言える非常にシンプルな理由を指摘します。



走る蓄電池と呼ばれる電気自動車


 電気自動車は「走る蓄電池」とも呼ばれ、普及することはむしろ電力不足の解消を促すことが期待されています。


大容量の蓄電池を装備している


日産リーフ


 電気自動車に搭載されている蓄電池は、容量が非常に大きいです。日産リーフに搭載された蓄電池の容量は、満充電であれば一般家庭の数日分の電力をまかなえるほどの容量です。


 この大容量の「蓄電池」が普及することで、電力が余る時に充電し、不足する時には放電することで電力の需給を平準化する効果が電気自動車に期待されています。この記事の本題に反して、電気自動車の普及はどちらかといえば電力不足を緩和あるいは解消する効果が期待されています。


電力不足リスクを高めると言える理由


 では、なぜ電力不足のリスクを高めると言えるのか。見落とされがちな問題点を指摘します。


貯めた電気を活用する術が普及していない


 電気自動車はたしかに大容量の蓄電池を搭載していますが、貯めた電力を「取り出す」には主に以下の2つの方法を取る必要があります。



 車載コンセントは、文字通り車内に取り付けられたコンセントです。家庭用の100Vの電源を、最大1500W程度まで取れるコンセントをそなえた電気自動車は数多く存在します。キャンプ、あるいは災害時の対策として活用されるものです。


 一方、V2H(ビークル・トゥ・ホーム)は電気自動車を家庭の蓄電池として活用できるシステムです。充電ケーブルで家庭の電力システムと接続することで、貯めた電力を家庭で使うことが出来るようになるシステムです。


V2H

V2Hシステムのデモ

 電気自動車を蓄電池として活用するには、このV2Hが必要ですが導入費用が充電器と比べても更に高額のため、現状ほとんど普及していません。電動車両電力供給システム協議会の発表によれば、2020年6月時点の累計出荷台数が5千台に留まります。


 一方、電気自動車・PHVの国内販売台数は以下のとおりです(出典:日本自動車工業会)


EV PHV
2015年 14188台 10467台
2016年 9390台 15299台
2017年 36004台 18092台
2018年 23230台 26533台
2019年 17609台 21281台

 電気自動車だけで過去5年で9.1万台、PHVも含めると19.2万台が販売されています。電動車に対するV2Hの普及率は非常に低いと言わざるを得ません。電動車から電気を取り出す方法が普及していないと言い換えることが出来ます。


冬の夕方の電力需給に不安が


 電動車が今度、どれほどのペースで普及するのかは不明ですが、日本国内でもシェアを確実に高めていくことは多くの人が想像していることだと思います。


 電動車の充電による電力需要は今後間違いなく増加します。一般家庭で普及している200Vタイプの充電器の場合、充電時は家庭用のルームエアコンを2台フル稼働させるのと同程度の電力を使用します。


Honda e


 電動車がまだ普及していない現在でも、日本国内において電力不足の懸念は度々高まっています。直近ですと2021年1月に沖縄を除く全国で需給が1ヶ月と長期にわたり逼迫しました。


 特に冬場の夕方は暖房により需要が伸び、一方で太陽光発電による供給も望めないため需給が逼迫しやすいです。例えば電気自動車で帰宅後、すぐに充電を始める人が増えてしまうと、ただでさえ逼迫しやすい冬場・夕方の電力需給が逼迫する恐れがあります。


 一部のユーザーは深夜に安い電気料金プランを契約しており、深夜に充電している人もいるようですが、深夜料金プランを契約するメリットが無いユーザーも多いため、何も考えずに夕方の帰宅後すぐに充電を始める人が少なくないのでは、と想像の域を脱しませんが危惧しています。


電気自動車の普及とあわせて「やるべきこと」がある


 電力不足を回避するため、電気自動車の普及とあわせて「やるべきこと」があります。


V2Hの導入促進


 V2Hがあってこそ、電気自動車は「蓄電池」として威力を発揮します。将来的には、電気自動車の補助金支給要件としてV2Hの設置を盛り込むなどの政策を実施すべきでしょう。


 電気自動車についてネガティブな記事となりましたが、V2Hと連携した電気自動車は効率的な電力システムの実現に大きく貢献します。発電量が不安定な再生可能エネルギーの普及も後押しできるため、低炭素社会の実現にも貢献するでしょう。


 ですがV2Hの無い電気自動車は、かえって火力発電を増やす事態を引き起こします。電力需給逼迫時の電力供給は火力発電が支えており、逼迫が増えれば老朽化した石油火力発電などCO2排出量の大きな発電所の稼働が増えることになります。


電気自動車の充電口


充電をする時間帯について啓蒙を行う


 深夜の時間帯は人々が活動していないため、電力需給が逼迫することはまずありません。電気自動車ユーザーが皆、深夜に充電すれば電気自動車がある程度急激に普及しても電力需給が逼迫する恐れは低いです。


 電気自動車を販売する際に、このような説明を行うことを義務付けるというのも有効だと思います。少なくとも、税金から支出される補助金を受ける人に対してはこのような説明は必ず行われるべきではないでしょうか。補助金支給時の「努力義務」として深夜の充電を盛り込むのも良いでしょう。


 日産リーフを始め、多くの電気自動車には充電を行う時間帯を「予約」できるタイマー機能があります。ユーザーにとっても、それほど負担・不便にはなりません。


 また、昨今は太陽光発電の急増により晴天時の昼間に電力が余ることがあります。九州などでは供給が多すぎて送電網の安定性を維持するのが難しくなっている状況があり、せっかく発電した電力を送電網に流さず「捨ててしまう」措置が頻繁に取られています。


 一歩踏み込んで、このような供給過多のタイミングでの充電を促進するような仕組みが導入されることにも期待したいです。この点に関しては、必ずしもV2Hを必要としません。




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