「再エネ系新電力」を起業してはいけない5つの理由

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「再エネ系新電力」が置かれているビジネス環境


 このサイトを運営していると、新電力を起業準備中という方から助言や情報提供を求められることがあります。話を伺っていると「再エネ」をテーマにしようとしている例が目立ちますが、再エネ系新電力を起業するのは「やめた方がいい」と私は思います。再エネ系新電力が置かれている現状を解説します。



再エネ系新電力の厳しい現実


 再エネ系新電力を取り巻く環境を紹介します。


現時点では消費者のニーズが小さい


 私自身は環境問題に人並み以上に関心があり、環境関連の記事を以前は多く出していましたが、書いても読んでくれる人がいないため最近は停滞気味です。


 また、当サイトでは再エネメニューやCO2排出ゼロを謳ったプランも積極的に紹介していますが、申込みは皆無と言ってよい状況が2016年からずっと続いています。「ここにニーズは無い」というのが、このサイトを運営して得られる実感です。


 当サイトでは電力会社を紹介する上で、各社のCO2排出係数の評価を積極的に掲載していますが、CO2排出量が少ないからといってユーザーが選んでくれるわけではない、ということも感じます。CO2排出量が多かろうが、料金が安い会社に申し込みが集まります。更に付け加えると、CO2排出係数のデータを掲載しない方がユーザーの「反応」が改善することは、これまでにABテストを何度も繰り返して確認済みという状況です。それでも排出係数のデータは「必要な情報」であると考えているため、ユーザーにとってはノイズでしかなくとも掲載を続けています。


 統計データを紹介します。2020年12月の電力販売実績で主要な「再エネ系新電力」の低圧電灯の契約件数(1件300kWhとした場合の推定値)は以下のとおりです。


社名 推定顧客数
自然電力 14240件
グリーナ 9783件
みんな電力 9737件

 自然電力については、実質再エネ比率が低いプランが当時は電気料金比較サイトのシミュレーション結果上位に表示されていたため、「エコ」ではなく料金の安さで契約したユーザーが多いものと思われます。また、みんな電力についても必ずしも実質再エネ比率が高くないプランを「スタンダードプラン」として販売し、料金の安さを訴求しています。


 再エネ系新電力として先行している上記の3社でさえも、低圧の契約獲得は順調とは言えない状況にあると言えます(みんな電力に関しては高圧・特高の販売が7割を占める)


効率的な集客が難しい


 再エネ系新電力の中には、TwitterなどSNSを活用して潜在顧客一人一人にアプローチしているところもあります。また、環境関連のイベントに参加するなど地道な活動を行っているところも少なくありません。


 一方、新電力でシェア上位の会社は、ガス会社や通信会社など既存顧客と接点を活用しているか、あるいは訪問販売で直接顧客と接点を持っているところが占めています。


 再エネ系新電力について考えた場合、訪問販売や代理店を活用することで顧客との接点を持つことは可能ですが、訪問販売や代理店を介した販売を行うにあたって「再エネ系」である必要性があるのか、という点は疑問です。


 また、中身がしっかりした再エネプランの場合、競争力がある料金水準に設定することは難しいでしょう。その場合、電気料金比較サイトで「上位」に表示されることは難しく(キャッシュバックを積めば上位表示できるサイトもある)、顧客獲得は難しいです。ただし、スイッチング全体に占める電気料金比較サイトのシェアはわずか3%であることも付け加えておかねばなりません。


マーケットが小さいのに大手が続々参入


 マーケットが小さいことに加え、その小さなマーケットに大手新電力や大手電力がこぞって参入し始めています。


 多くは非化石証書を活用した「似たような」サービス内容であるため、何らかの付加価値があれば対抗することは不可能ではないとは思いますが、手強い競争相手が多数存在していることは念頭に入れておく必要があります。


 なお、そのような大手新電力の再エネプランですら、苦戦を強いられているというのが現実です。需要が無いところで競争が激化している、と言えます。


容量市場導入によるコスト増


 2024年度から容量市場という新たな制度が始まります。将来の「発電能力」に対して、電力会社がお金を支払い、電力不足を防ごうという取り組みです。


 容量市場制度の中で、再生可能エネルギーは発電量が一定ではないとして、調整係数というものが掛けられて調整されます。再生可能エネルギーの調達比率が大きい場合、火力発電所からの調達が大きい場合と比べて負担金の金額が大きくなることが避けられません。


調達価格の高騰リスクが大きい


需給逼迫により高騰した2020年12月26日〜21年1月28日の取引価格(東京エリア)

需給逼迫により高騰した2020年12月26日〜21年1月28日の取引価格(東京エリア)

 ルール上は「再生可能エネルギー」として扱わないことになっていますが、FIT電源を大きな割合で調達し非化石証書を組み合わせるなどして再生可能エネルギーとして販売している再エネ系新電力が目立ちます。。


 FIT電源を新電力が調達する際、調達価格は卸電力取引所(JEPX)の取引価格と連動します。JEPXの取引価格は2021年1月に記録的な高騰を見せたことが記憶に新しいですが、度々高騰し新電力各社の経営を苦しめています。


 記事執筆時点で2021年夏、2022年1・2月にも取引価格の高騰が予想される事態(需給逼迫の見通しを経産省が公表)となっており、特に再エネ「系」新電力には苦しい事業環境と言えます。


新電力で企業する場合の「勝ち筋」は


 「やめておけ」と言うだけでは無責任だと思うので、上手くいきそうなやり方を紹介して終わりとします。



 例えば、町の不動産仲介店と提携して、賃貸物件を契約した人に電気の契約を紹介してもらうといった方策は、シェア上位社の勝ちパターンといえます。その際、必ずしも再エネを訴求する必要性は低いですし、更に付け加えると大手電力従量電灯より数%程度安くしておけば、F-Powerのようなアグレッシブな値付けは必ずしも必要ありません。




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