変動制料金プラン「義務化」の問題点
経産省が義務化することを検討している変動制料金プラン。義務化による問題点を指摘します。
目次
義務化が検討されている変動制料金プラン
まずは義務化が検討されている「変動制料金プラン」とは何か、具体例を挙げながら分かりやすく解説します。
変動制料金プランとは
変動制料金プランとは、時間帯によって料金単価が変わる料金プランを指します。具体的には以下のものが変動制料金プランといえます。
- オール電化プラン
- 市場連動型プラン
- 昼間の料金単価が安いプラン
- 深夜電力プラン
一般的な電気料金プランでは、時間帯や曜日による料金変動がありません。一方、上で挙げた形態の料金プランは、曜日や時間帯、あるいは30分ごとに料金単価が「変動」します。このような料金プランを変動制料金プランと呼びます。
義務化が検討されている理由は「太陽光発電」
では、なぜ変動制料金プランが「義務化」されようとしているのか。その最大の理由は太陽光発電です。
日本では固定価格買取制度の開始以降、再生可能エネルギーの導入が飛躍的に伸びました。ですがその内訳を見ると太陽光発電に偏っていると言えます。固定価格買取制度を利用した累計の買取電力量(20年9月末時点)は70.5%が太陽光発電となっています。
太陽光発電に偏って導入が進んだ結果、九州などでは使い切れないほどの電力が発電されており、せっかく発電した電力を捨ててしまう「出力制御」という措置が取られています。電力需要が少ない春・秋の晴天日は連日のように実施されており、せっかく導入が進んだ太陽光発電(と、その他の再生可能エネルギー)を有効活用出来ない状況が生じています。
出力制御が実施されるタイミングでは、電力の取引価格がタダ同然となります。変動制料金プランはこの取引価格を織り込んだ価格設定がなされることが期待でき、消費者の行動が変わる(安い時間帯に多く使う)ことで太陽光発電の有効活用が期待できるというわけです。
変動制電気料金プラン義務化によって生じる影響
変動制料金プランの義務化には問題点もあります。
電力会社間の料金比較が困難となる
変動制料金プラン同士の料金比較は困難です。理由は主に2つあります。
- 電力会社やプランによって時間帯の区切り方が異なる
- ユーザーによって電気の使い方が異なる
「モデルケース」をもとに概算することも可能ですが、家庭によって電気の使い方は千差万別であるため、誤差が非常に大きなものとなります。
上記2つの要因をクリアして正確な試算を行うには、スマートメーターから取得した30分単位の電気使用量データを1年分用意する必要があります。そうしなければ正確な試算を行うことは出来ません。
新電力の新規営業が難しくなる
料金比較が困難となるため、電力自由化によって参入した新電力各社の新規営業が困難となります。
現状、多くの新電力が対面営業により顧客を獲得しています(電気料金比較サイトのシェアは切り替え全体のわずか3%程度) 対面営業の現場では、大手電力が発行した検針票に記載された1ヶ月分の使用量(kWh)と契約容量をもとに料金を試算して、その結果をもとに「うちに切り替えたら●●円安くなります」という形で顧客にメリットを提示します。
ですが変動制料金プランが義務化された場合、そのような料金比較が成立しなくなるというのは上述の通りです。「安くなる」かどうかは、スマートメーターから取得したデータをもとに試算しなければ判断することは出来ませんが、スマートメーターからデータを取得するというワンステップが増えることで、新規営業が格段に難しくなることは避けられません。
仮に概算(モデルケース)で試算して「●●円安くなる」と提示した場合、実際には割高となるリスクも小さくないため、後に消費者問題に発展する恐れがあります。
電気料金比較サイトが成立しなくなる
「試算が成立しなくなる」ことから、当サイトを含め電気料金比較サイトが成立しづらくなります。
正確に言えば、スマートメーターのデータを取り込んで試算するようなサービスは成立しうると言えますが、そもそもスマートメーターから取得したデータを持っているユーザーが皆無であるため、サービスを提供出来たとしても利用できるユーザーはほぼいないと言えます。
「義務化」をするのであれば、まずはスマートメーターのデータを簡単に取得できる環境を整えることから始めるべきだと思います(データのフォーマットの統一もあわせて必要)
なお、当サイトでは時間帯制の料金プランを料金シミュレーションに掲載していません。変動制料金プランが義務化された場合は、料金シミュレーションの提供を縮小・終了する予定です。
「義務化」は電力自由化に逆行するのではないか
2016年に電力小売が完全自由化され、すべてのユーザーが各自で自由に電気料金メニューを選択できるようになりました。
ですが変動制料金プランを「義務化」するというのは、そうした自由化の流れとは明らかに逆行するものです。変動制料金プランを使いたくない、と考えるユーザーの「自由」はどこに消えてしまうのでしょうか。
また、新電力の新規営業のハードルが格段に高くなることをふまえても、自由化の流れを巻き戻すことにも繋がりかねません。
関連記事
電力自由化とは? | 停電のリスクは? |
乗り換えでいくら安くなるの? | 乗り換えで料金が値上がりするケース |
新電力とは? |
どうやって契約するの? | 乗り換えのメリット・デメリット |
乗り換えにかかる初期費用 | 乗り換えに工事は必要? |
賃貸住宅でも乗り換えられるの? | 解約する時の違約金は? |
安くなる理由 | 電気の調達は? |