「核融合発電で電気代がタダになる」は誤解
核融合発電が実現することで、電気代がタダになる未来が訪れるとするネットメディアのニュース記事や動画が出回っています。しかしそれは明らかに事実ではありません。核融合発電が実現した未来を見てみましょう。
目次
核融合発電とは
まずは核融合発電とは何か、簡単に説明します。
核融合を利用した未来の発電方法
「核融合反応」を利用した未来の発電方法です。水素などの軽い原子核同士を結合させてエネルギーを生み出し、発電を行います。
現在の原子力発電はウランやプルトニウムを核分裂させる際に発生するエネルギーを発電に利用します。核融合を利用する核融合発電と、核分裂を利用する原子力発電ということで仕組みは大きく異なるものです。
電気代がタダ同然になるとのネット記事も
ネット上には核融合発電が実現すること「電気代がタダになる」「タダ同然になる」するコンテンツが散見されます。具体的には以下のようなものがあります。
あと20年で実現する─このスローガンが半世紀以上前から掲げられ、まだ実現していないのが、水素の原子核などの融合を利用して電気を生み出す「核融合発電」だ。燃料1グラムから石油8トン分の熱量を得られる。その燃料は地球に無尽蔵にあり、電気代はタダ同然になる。
引用元:「電気代はタダ同然に」人類の夢・核融合発電はついに実現するか(文春オンライン)
コンテンツの中身まで電気代がタダになるという論調が展開されている例は少なく、いわゆる「釣りタイトル」として核融合発電で電気代がタダになるという話が独り歩きしている感があります。
では、核融合発電が実現することで本当に電気代はタダになるのか。結論は以下のとおりです。
核融合発電が実現しても電気代はタダにならない
結論としては、核融合発電が実用化されても電気代がタダになることは無いと断言できます。以下、理由を詳しく解説します。
多額の設備費用が掛かる
核融合発電には多額の研究費が充てられ、世界各国で研究が進められています。日本や米国、欧州などが参加するITERプロジェクトの総建設費は約3兆円と巨額にのぼります。「夢の技術」だからこそ、研究開発ならびに実用化されたあとの建設費は巨額なものとなります。
わずかな「燃料」から膨大なエネルギーを取り出すことが出来るとされている核融合発電ですが、「燃料代」は安価だとしても設備費用は安価ではありません。キヤノングローバル戦略研究所の試算によれば、核融合発電の発電コストは7.6円/kWh、コストダウンを進めた場合5.4円になると見積もられています。
発電方法 | 発電コスト(2020年/日本) |
---|---|
石炭火力 | 12.5円/kWh |
LNG火力 | 10.7円/kWh |
原子力 | 11.5円/kWh〜 |
政府は各発電方法について、コストを上記のように見積もっています。これらの現在発電コストが低いとされている発電方法と比較して、核融合発電は発電コストが低くなることが期待されてはいるものの、発電コストがゼロと見積もられているわけではありません。
電気を届けるための託送料金はタダにならない
発電所でつくられた電気を家庭や工場、事務所に供給するには長い距離を送電する必要があります。そうした送電・配電ルートを利用するには託送料金と呼ばれる「送料」が掛かります。
託送料金は家庭向けで約9円/kWh以上です。つまり核融合発電の発電コストが7.6円とした場合、送料と原価だけで約20円/kWh掛かることになり、電力会社の利益や事務費用などを加算すると核融合発電の電力を家庭に供給する場合の販売価格は少なくとも25円/kWh以上にならざるを得ないと言えます。
大量の電気を消費する電炉や巨大工場に隣接して核融合発電所を建設することで、送電に掛かるコストをほぼゼロにすることは可能ですが、少なくとも一般家庭に電気を送り届けるには託送料金の発生は不可避であり、託送料金がある以上は発電コストがたとえ0円になったとしても電気代が0円になることはありません。
2024年現在の電気料金は東京電力管内家庭向けで約30円/kWh(燃料費調整込、再エネ賦課金含まない)なので、核融合発電が実現することで電気代が「安くなる」ことはあったとしても、タダになることは無いと結論づけることができます。
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核融合発電の実現で変わる未来
電気代がタダになることは無いとしても、核融合発電が実用化することで以下のようなメリットがあります。
電気代が下がる
電気代がタダになることは無いとしても、発電コストが下がることで電気代が下がる効果が期待できます。
脱炭素化の影響等により電気代が長期的に値上がりする傾向があります。核融合発電は上昇を続けていく電気料金への切り札となる可能性があります。
CO2排出量の削減
核融合発電は発電時にCO2を排出しません。再生可能エネルギーや原子力発電と同様に脱炭素電源としての役割を期待されています。
諸外国では風力発電や太陽光発電のコスト低下が著しく、脱炭素化を有利に進めている地域もありますが日本は地形や気候の問題からほかの先進国と比較して再生可能エネルギーによる発電コストが割高に推移しています。核融合発電の実現により脱炭素電源の安価な調達が実現することによる恩恵は大きなものとなるでしょう。
エネルギーの安定確保に貢献
核融合発電はわずかな「燃料」から膨大なエネルギーを取り出すことができる「夢の技術」として期待を集めています。わずか0.1グラムの重水素と、0.3gのリチウムから日本人1人あたりの年間平均電力使用量7500kWhを発電できるとされており、少量の燃料を保管しておくだけで安定的なエネルギー供給を実現することができます。
我が国はエネルギー供給の大部分を海外からの調達に頼っています。原油は国内消費量の約200日分の備蓄がある一方、LNG(液化天然ガス)の備蓄というか在庫は約2週間分しかありません。仮に2週間、全国で船舶による輸送が停止する事態が発生した場合、2週間後には都市ガスの供給がほぼ全国で停止、電力供給も3分の1が失われることになります。
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