LNG火力発電の長所と短所は?
日本でも新設計画が相次ぐLNG火力発電。そのメリット・デメリットを他の発電方法と比較しながら、分かりやすく解説します。
目次
1969年からLNGの輸入を開始した日本
まずはLNG火力発電とは何か、簡単に解説します。
そもそもLNG(液化天然ガス)とは?
LNG火力発電はLNG(液化天然ガス)を燃料として使用する火力発電ですが、そもそもLNGとは何なのか。
天然ガスは多くの人がイメージするように気体のガスですが、それをマイナス162度までに冷却すると液体になります。水蒸気を冷やすと液体の水になるのと同じイメージです。水の場合は約100度以下になると液体になりますが、天然ガスはマイナス162度まで冷やすと液体になります。
わざわざ超低温にして液体にするのは、運搬の際の手間を減らすためです。
天然ガスは冷却して液化することで、体積が600分の1にまで減るため、船で遠くまで運ぶ際のコストが小さくなります。
世界最大のLNG輸入国は日本
日本は世界最大のLNG消費・輸入国です。世界の輸入量の4分の1を日本が占めています。日本を含め、LNGの輸入量が多い国の多くは東アジアに位置しています(輸入量の7割はアジア)
- 1位 日本 1130億m3
- 2位 中国 735億m3
- 3位 韓国 602億m3
- 4位 インド 306億m3
- 5位 台湾 228億m3
天然ガスはLNGとして船で運ぶ以外にも、気体のガスのままパイプラインで送ることも可能です。ヨーロッパなどではパイプライン網が充実しているため、わざわざ液化して輸送する必要性が低いです(液化するにもコストが掛かる)
一方アジアではそうしたパイプラインが充実しておらず、天然ガスを船で輸送する必要があるため、自ずとLNGの取り扱い量が増えるという背景があります。なお、日本でもサハリンのガス田からパイプラインを敷く構想がありますが、もし実現すると「LNG」の輸入量は大きく減少するでしょう。
電力供給の4割を担う
LNG火力発電は特に東日本大震災以降、日本の電力供給を支える屋台骨となっています。また、足元でも大手電力会社・新電力会社ともにLNG火力発電所を新設する動きが続いており、今後ますます重要な発電方法となっていくでしょう。
LNG火力発電のメリット
続いて、LNG火力発電の利点を説明します。
火力発電としては環境負荷が小さい
LNG火力発電には、石油や石炭を燃やす火力発電と比較して環境負荷が小さいというメリットがあります。例えばCO2排出量では石炭火力発電と比較して約半分です(出典:電力中央研究所)
発電方法 | 発電時のCO2排出量 |
---|---|
LNG火力 | 476g-co2/kWh |
LNG火力 コンバインド |
376g-co2/kWh |
石油火力発電 | 695g-co2/kWh |
石炭火力発電 | 864g-co2/kWh |
更に、大気汚染などの原因となる汚染物質の排出量も少ないです(出典:九州電力)
発電方法 | LNG火力 | 石油火力 | 石炭火力 |
---|---|---|---|
硫黄酸化物 | 0 | 1.919g/kWh | 0.247g/kWh |
窒素酸化物 | 0.099g/kWh | 0.615g/kWh | 0.271g/kWh |
ばいじん | 0 | 0.010g/kWh | 0.010g/kWh |
産業廃棄物 | 0.041g/kWh | 1.408g/kWh | 49.09g/kWh |
LNGは製造工程で硫黄分が取り除かれるため、喘息や酸性雨を引き起こす硫黄酸化物を排出しません。また、窒素の含有量が少ないため窒素酸化物の発生も少ないです。
火力発電としては環境性能が圧倒的に優れていると言えます。
燃料の採掘地が世界に点在している
日本が輸入している石油の「中東依存度」は87%(2017年度)と、多くを中東からの輸入に頼っています。世界の埋蔵量の約3分の2が中東にあることや、中東産石油がシェールオイルなどと比べて生産コストが安いことが原因です。
一方、天然ガスの産出国は世界に点在しています。日本のLNGの調達先を見ても、その多様性を見て取ることができます(2018年度実績)
- 1位 オーストラリア 2945億m3
- 2位 マレーシア 996億m3
- 3位 カタール 969億m3
- 4位 ロシア 639億m3
- 5位 インドネシア 476億m3
世界情勢が悪化した際に輸入が途絶えるリスクは、石油と比較して低いと言えます。
また、20年単位などの長期契約が多いため、その点でも安定して輸入することができます。
出力の調整が容易 再エネの普及を支える
再生可能エネルギーの発電量は天候の変化により大きく変動することがあります。供給(発電量)と需要のバランスが崩れてしまうことで、大規模な停電が発生する場合もあるため、発電量を調整する必要があります。
LNG火力発電は石油火力発電や水力発電と並んで、「調整力」が高い発電方法とされています。小型のものでは起動から10分足らずの間に十分な発電量を得ることが可能です。
再生可能エネルギーの不安定さを吸収し、再生可能エネルギーの更なる普及を可能としているのがLNG火力発電とも言えます。
日本企業のシェアが高い
日本は1970年からいち早くLNGの輸入を開始し、今日まで圧倒的な量のLNGを取り扱ってきました。購買力が高いだけでなく、豊富なノウハウの蓄積があります。
LNGを扱うには大規模な設備が必要となりますが、千代田化工建設や日揮などの日本企業が世界中で設備の建設工事を受注しており、日本企業に強みのある分野となっています。
LNG火力発電のデメリット・問題点
LNG火力発電には以下のようなデメリットもあります。
燃料の長期大量備蓄が難しい
概ね国内消費量の200日分以上の備蓄量がある石油に対し、LNGはわずか2週間分程度の備蓄量しかありません。備蓄の義務がある石油に対し、LNGは義務もありません。
石油と比較して産地が世界各国に分散しているため輸入が途絶えるリスクは低いものの、LNGの備蓄はこれまでにも度々問題点として指摘されています。
LNGはマイナス162度で冷却する必要があるため、LNGのまま置いておくと温度が上がり、気体に戻ってしまうため長期の備蓄には向かない特性があります。LNG(液体)ではなく気体の状態での備蓄を増やす必要があるのではないでしょうか。
日本でも既に新潟県などで枯渇したガス田にガスを貯蔵する取り組みが行われていますが、こうした取り組みを活用したり、あるいは天然ガスのパイプラインの整備なども有効です(パイプライン内にも一定量貯めることが出来る)
CO2を排出する
石油や石炭の火力発電と比較してCO2排出量が少ないと言えるものの、CO2を排出しないわけではありません。
より発電効率が高く燃費が良いLNGコンバインドサイクル発電への転換や、そもそもLNG火力発電自体を減らしていくことが遠い将来求められるようになるかもしれません。
製造・輸送コストが掛かる
LNGの製造・輸送にはコストが掛かります。ガスをマイナス162度にまで冷やし、冷えたまま運ぶ必要があるためです。常温配送が可能なレトルト食品ではなくクール便での配送が必要な冷凍食品というイメージでしょうか。
東日本大震災直後、日本の天然ガスの輸入価格がヨーロッパなどと比べて著しく高いとの批判が巻き起こりましたが、パイプラインで安価に輸入できるヨーロッパと、LNGで輸入する必要がある日本とでは前提条件が大きく異る点を考慮する必要があります。
発電コストを更に低下させるには、発電効率の向上とともにLNGの調達・製造・輸送コストの低下が必要です。
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