離島の主力電源に?海洋温度差発電のメリット・デメリット
「夢の発電」(政府広報)とされている海洋温度差発電。将来、離島地域の電力供給を支える主力電源になるかもしれない次世代の発電方法のメリット・デメリットを解説します。
目次
海洋温度差発電とは
海洋温度差発電は、表層の温度が高い海水と深層の温度の低い海水の「温度差」を利用して発電をする次世代の発電方法です。
表層の温かい海水をくみ上げて、アンモニアなどの低い温度で蒸発する液体が入った蒸発器に送ります。この蒸気によってタービンを回して発電をします。発電した後の蒸気は凝縮器に送られて、温度が低い深層の海水によって冷やされることで液体に戻り、このサイクルが循環することで発電を行います。
「蒸気でタービンを回して発電」という部分は、火力発電や原子力発電でも同じです。蒸気を作る方法が原子力に由来すれば原子力発電、石油を燃やしたものであれば石油火力発電となります。
日本における導入のポテンシャルは陸地に近いところに限定すると5,952MW、大型の原子力発電6基分と言われています。世界では1兆kWのポテンシャルがあると言われており、これは原発100万基分に相当します。
海洋温度差発電のメリット
海洋温度差発電のメリットを整理します。
石油火力発電より低コストになる場合も
外部の地域と送電線が接続していない離島地域では、石油火力発電に電力供給を頼っている地域が多いです。石油火力発電は発電コストが高く、発電コストは40〜45円/kWh以上と言われています。離島地域では発電コストの高さから電気代が高額になることを避けるため、離島地域以外の地域から徴収した離島ユニーバサルサービス調整でコストを穴埋めしています。
海洋温度差発電は、離島地域では石油火力発電よりも発電コストが安くなることが期待されています。以下、海洋温度差発電の発電コストをNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の資料から引用します。
発電方法 | 発電コスト |
---|---|
離島・火力(重油) | 40円/kWh以上 |
海洋温度差 1MW |
50円/kWh程度 |
海洋温度差 5MW |
30.4〜45.7円/kWh |
海洋温度差 10MW |
20円/kWh |
海洋温度差 100MW |
10円/kWh |
海洋温度差発電は発電設備を大規模化することで、発電コストの低減が期待されています。将来的には従来の離島用の石油火力発電よりも低コストを実現することが期待されています。
沖縄の久米島では2013年から海洋温度差発電の実証実験が行われ、1MW級のプラントでの発電コストは29.7円/kWhと報告されており、上記で引用したNEDOの資料の試算値よりもコスト低減に成功しています。
発電時にCO2を排出しない
海水温を利用して発電を行うため、発電時にCO2を排出しません。
設備の製造・運営・廃棄などで発生するCO2を含めたライフサイクル全体でのCO2排出量も2.5MW級プラントで1kWhあたり119g、100MW級で14gです。火力発電と比較して大幅に少ないことは言うまでもありません。
発電方法 | ライフサイクル 排出量 |
---|---|
石炭火力 | 943g-co2/kWh |
石油火力 | 738g-co2/kWh |
陸上風力 | 27g-co2/kWh |
原子力 | 19g-co2/kWh |
住宅用太陽光 | 38g-co2/kWh |
海洋温度差2.5MW級 | 119g-co2/kWh |
海洋温度差100MW級 | 14g-co2/kWh |
上表の石炭火力から住宅用太陽光までの数値は電力中央研究所の資料からの引用です。
天候に左右されづらい
発電量が日照に左右される太陽光発電や、風況に左右される風力発電よりも、海洋温度差発電は天候に左右されづらいと言われています。
深層の海水温は大きな変化は無く、また表層の海水温も急激な温度変化は起こりづらいとされており、安定した稼働が可能です。
また、久米島の実証プラントは既に大規模な台風を何度も経験しており、台風の中でも「安定した稼働状況を保った」をNEDOの資料に記載されています。
海洋深層水の活用も
くみ上げ設備によりくみ上げられた海洋深層水は海ぶどうや牡蠣、車海老の養殖、飲料水、食塩の製造などにも利用され、地域振興にも貢献しています。
海洋温度差発電に使用された後の海水は温度が変化するのみで、水質の悪化はありません(pHなどに若干の変動が見られるとの報告も) 発電に使用した後の海水を養殖に活用することも検討されています。
海洋温度差発電のデメリット
デメリットも指摘できます。
大規模電源と比較してコストが高い
離島の電源としては、現在主力の石油を燃料とする火力発電と比較しても既に競争力を持つ海洋温度差発電ですが、大規模な石炭火力発電所や原子力発電所などと比較するとその発電コストは現状、大幅に高いと言わざるを得ません。資源エネルギー庁が発表している2020年時点の主要な発電方法の発電コストと、NEDOの資料にある海洋温度差発電の発電コストを比較します。
発電方法 | 発電コスト |
---|---|
石炭火力 | 12.5円/kWh |
LNG火力 | 10.7円/kWh |
原子力 | 11.5円/kWh〜 |
海洋温度差 1MW |
50円/kWh程度 |
海洋温度差 5MW |
30.4〜45.7円/kWh |
海洋温度差 10MW |
20円/kWh |
海洋温度差 100MW |
10円/kWh |
南方の離島のように、限定されたエリアでは「主力電源」となる可能性もある海洋温度差発電ですが、日本全体の主力電源となる可能性は低いと言えます。
気温が高い地域でしか導入できない
海洋温度差発電は、現在の技術では表層海水と深層海水の温度差が年間平均20度以上ある地域で導入が可能です。この条件に該当する地域は、日本国内では沖縄周辺や小笠原諸島に限定されます。
表層海面温度低下への懸念も
表層と深層の海水の温度差によって発電を行うため、例えば表層の海水温が低下すると発電効率が低下します。
海水温は気温と異なり急激な変動はしづらいと言われていますが、例えばや台風通過後に数度低下することもあります。何らかの理由により海水温に大きな変動が生じた際に、十分な発電量を得られなくなるリスクはゼロではないと言えます。特に離島地域は外部から電力を調達することが難しいため、風力や太陽光、従来の石油火力発電など他の発電方法や蓄電システムと組み合わせた運用を目指していくべきでしょう。
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