電気でも「地産地消」が注目されている
野菜や果物でよく聞く「地産地消」 昨今は電力などのエネルギーの分野でも、地産地消が一部で注目され始めています。電気を地産地消するとはどういうことか、どんなメリット・デメリットがあるのかを分かりやすく解説します。
目次
電気の「地産地消」とは
電気を「地産地消する」とはどういうことか。分かりやすく解説します。
従来の電力システムとの違いは?
従来の電力システムを一言で表すと「大規模集中」です。それに対し地産地消型の電力システムは「小規模分散」と言われています。
大規模な火力発電所や原子力発電所などでまとめて大量の電力を生み出し、それを送電線を通じて広範囲に届けるのが従来型の電力システムです。「大規模集中型」とも言われます。
それに対し地産地消型の電力システムでは、小規模な発電所が各地域に点在するのが特徴です。太陽光発電や地域の木材を燃料とするバイオマス発電、風力発電やゴミの焼却施設での発電などで生み出される電力を、地域内の家庭や企業、学校などの施設に向けて販売する取り組みです。
従来型 | 地産地消型 | |
---|---|---|
発電所の規模 | 大きい | 小さい |
生産地と消費地の距離 | 遠い | 近い |
発電所の運営者 | 大手電力など大企業のみ | 中小規模事業者や自治体も |
「地産地消」のメリット
電力を地産地消するには、どのようなメリットがあるのか。分かりやすくまとめます。
地域内での富の循環が生まれる
これまでの電力システムでは、例えて言うならば遠くにあるお店からネット通販で商品(電力)を購入するような仕組みです。遠く離れた発電所から電気を購入するため、地域内での経済効果は見込めません。
それに対し「地産地消型」は、地域の商店での買い物と同じ効果があります。雇用の創出や税収の増加など、様々な波及効果が期待できます。一見すると人手が掛からないように見える太陽光発電所でも、夏場は定期的に草刈りが必要になるなどメンテナンスが必要となり、経済効果が発生します。
環境負荷の低減
地産地消型の電力システムと言うと、現在は冒頭でも紹介したように太陽光発電やバイオマス発電といった再生可能エネルギーによる発電が注目されています。しかし、単に再生可能エネルギーを活用するだけがメリットではありません。
火力発電所の「熱効率」は、最新のものでも50%台とされています。この数値の意味は、燃やした燃料の内の50%は電気エネルギーに変わるが、残りの50%は「熱」として捨てられているということです。言い換えると、海外から輸入した燃料の半分を捨てているのと同じです。
大規模な火力発電所でも、近隣の石油化学コンビナートに「熱」を供給するなどして活用していますが、まだまだ充分に活用しきれていません。
地産地消型の電力システムでは、例えば地域に小規模なガス火力発電所を設置して、そこから電力だけでなく「熱」を地域に供給することも可能です。消費者までの距離が近いため、熱エネルギーの活用がしやすい利点があります。
六本木ヒルズの地下にはガスの発電所と熱を供給するシステムがあり、ヒルズで使用する電力と熱の大部分を賄っています。エネルギー効率は76.2%(六本木エネルギーサービス資料より)と、大規模な最新鋭の火力発電所を大幅に上回り、CO2排出量の削減に成果を上げています。
停電リスクの低減
必ずしも地産地消を推進することで実現出来るものではありませんが、停電リスクの低減という効果も少なからず期待できます。
遠隔地にある大規模な発電所に頼る電力システムでは、電気を届ける送電網が重要です。しかし送電網は台風や地震、あるいは事故により寸断されることがあります。
2019年に千葉県を襲った台風では主要な送電線の損傷も停電の原因の一つとなりました(停電が長期化したのは主に地域内の細かな「配電線」の損傷が原因で、この部分は地産地消型でもリスクは同じ) 地産地消型では長距離に及ぶ送電網への依存度が低くなる効果が期待できます。
また、2018年の北海道胆振東部地震では、地震発生時に道内の電力供給の半分を担っていた苫東厚真火力発電所が停止したことで、道内全域が停電しました。地産地消型では発電所の一つ一つが小規模であるため、発電を停止する発電所が出ても電力システム全体への影響は軽微です。
「地産地消」のデメリット
地産地消型にはデメリットもあります。
コストが高い
大規模な発電所での「大量生産」と比較して、小規模な地産地消型はコストが高くなりやすい側面があります。特に人口密集地でない地域での、再生可能エネルギーを活用した地産地消モデルは補助金や再生可能エネルギー発電賦課金が無ければ採算が取れないものが目立ちます。
一方、先に挙げた六本木ヒルズのように、都心部の開発案件と一体となった地産地消モデルについては、各地で民間主導で導入が進んでいることからも分かるように、必ずしもコスト面で不利になるわけではありません。
「地産地消」の具体例
最後に、具体的な地産地消に向けた取り組みを紹介します。
自治体新電力
全国各地で自治体が出資した新電力会社を設立する動きがあります。自治体が出資して設立された新電力を「自治体新電力」と呼びます。
その多くは、事業目的として「地産地消」を掲げています。例えば先進的な事例として注目される「中之条電力」(群馬県)では、地域内にある太陽光発電所や小水力発電などを活用して主に町内に電力を販売しています。
また、「とっとり市民電力」では鳥取市の下水処理場から発生するバイオガスを利用したバイオマス発電などからも電力を調達しています。
一方、「地産地消」を掲げながらも、大手新電力など外部からの調達にばかり頼っている自治体新電力も少なくなく、地産地消の中身が伴わない事例も少なくないというのが現状です。
地域新電力
自治体が関与しない形で、「地元」での電力販売を目指して新電力を設立する例もあります。そうしたものを「地域新電力」と呼びます。特定の地域内での電力の調達・販売を目指し、「地産地消」を掲げています。
例えば鳥取県西部で電力を販売する中海テレビ放送では、米子市の清掃工場でゴミを焼却する際に得られる電力を調達し、70%以上を賄っています(2016年)
自治体電力と同様に、地域内での電力調達が不十分、あるいは調達する気が見られない、もしくは電源構成を公表していない例が多いです。また、販売面でも当初から「地元」に限定せず、場合によっては全国に販売するなど地産地消とは程遠いものが目立ちます。
都市部でのガス発電・熱供給
上でも紹介した六本木ヒルズのような事例です。電気の「地産地消」という言葉のイメージからは遠いかもしれませんが、これも立派な地産地消です。
都市部の地下に設置した、都市ガスを燃料とした小規模な火力発電(天然ガスコージェネレーション)で電気と熱を生み出し、地域や大型ビルに供給します。
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