【全36社】地域新電力の「雇用創出能力」を分析した結果

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地域新電力(自治体新電力)に雇用創出能力はあるのか


 全国で設立が相次ぐ地域新電力(自治体新電力)ですが、その設立目的として雇用の創出が謳われることが少なくありません。では本当に地域新電力には雇用創出能力があるのか、データをもとに考察します。



地域新電力に期待される「雇用創出」


設立目的として掲げられる雇用創出


 自治体が出資して設立される地域新電力(自治体新電力)の「設立目的」として、地域内経済の活性化とそれに付随して「雇用創出」が謳われることがしばしばあります。


秩父新電力の設立目的

秩父新電力(PDF)より

 上記の資料は埼玉県秩父市などが出資して設立された秩父新電力の資料です。地域経済の循環と並んで「雇用の創出」が地域新電力の必要性として大きく掲げられています。


 他の多くの地域新電力においても、設立目的として雇用創出が掲げられています。では、その目的は達成されているのでしょうか。全36社のデータを分析します。


地域新電力の雇用創出の現状


 自治体が出資している地域新電力(自治体新電力)のデータを分析します。


全36社の社保被保険者数の一覧


 日本年金機構が提供している厚生年金保険・健康保険適用事業所の検索システムを利用して、私が存在を認識している自治体新電力36社の「被保険者数」を調べました。なお、出資元からの出向者などは出向元の社会保険に加入している例があり、必ずしも従業員数とは一致しませんが、被保険者数は新たに生まれた雇用を測る上で参考になる値であると考えています(2021年6月2日データ更新時点での情報)


社名 出資している自治体 被保険者数
東北地方
かづのパワー
※経営不振で事業休止
秋田県鹿角市 2人
やまがた新電力 山形県 5人
東松島みらいとし機構 宮城県東松島市 21人
宮古新電力 岩手県宮古市 -
北上新電力 岩手県北上市 -
久慈地域エネルギー 岩手県久慈市 2人
かみでん里山公社 宮城県加美町 -
気仙沼グリーンエナジー 宮城県気仙沼市 -
葛尾創生電力 福島県葛尾村 5人
そうまIグリッド合同会社 福島県相馬市 -
関東地方
銚子電力 千葉県銚子市 1人
成田香取エネルギー 千葉県成田市、香取市 3人
CHIBAむつざわエナジー 千葉県睦沢町 -
中之条パワー 群馬県中之条町 2人
おおた電力 群馬県太田市 -
東京エコサービス 東京二十三区清掃一部事務組合 258人
ところざわ未来電力 埼玉県所沢市 -
秩父新電力 埼玉県秩父市 5人
ふかやeパワー 埼玉県深谷市 4人
中部地方
浜松新電力 静岡県浜松市 1人
松坂新電力 三重県松阪市 -
関西地方
いこま市民パワー 奈良県生駒市 2人
泉佐野電力 大阪府泉佐野市 2人
こなんウルトラパワー 滋賀県湖南市 -
中国地方
中海テレビ放送 鳥取県米子市、境港市、日吉津村など 72人
とっとり市民電力 鳥取市 4人
南部だんだんエナジー 鳥取県南部町 -
ローカルエナジー 鳥取県米子市、境港市 5人
奥出雲電力 島根県奥出雲町 -
九州地方
みやまスマートエネルギー 福岡県みやま市 27人
いちき串木野電力 鹿児島県いちき串木野市 2人
ひおき地域エネルギー 鹿児島県日置市 4人
北九州パワー 福岡県北九州市 8人
おおすみ半島スマートエネルギー 鹿児島県肝付町 6人
ネイチャーエナジー小国 熊本県小国町 -
Coco テラスたがわ 福岡県田川市 -

 被保険者数の欄が「-」となっているものは、社会保険の加入要件を満たしている人がいない、社会保険に加入していないなどの理由が考えられます(法人名と法人番号で検索を行っています)


被保険者数が多い「地域新電力」の特徴


 上表で被保険者数が10人以上となっている東松島みらいとし機構、東京エコサービス、中海テレビ放送、みやまスマートエネルギーの4者の共通点としては、新電力(小売電気事業)以外のところでビジネスを展開している点です。


 中海テレビ放送は説明するまでもなく鳥取県西部のケーブルテレビ会社ですし、東京エコサービスは東京都などの清掃工場の運転管理業務や焼却灰の資源化などを行っている会社です。事業として新電力事業は本流ではないとみられます。


 また、東松島みらいとし機構は2015年から東松島市のふるさと納税の窓口業務の受託や、市が所有するパークゴルフ場の運営受託、市営住宅の指定管理などを受託しています。


 みやまスマートエネルギーは新電力というイメージの強い地域新電力ですが、地元みやま市の食材などを飲食・購入できる「さくらテラス」という施設の運営を行っており、その運営のために多くの人を雇用しているのではないでしょうか。


地域新電力の雇用創出能力についての考察


 以上のデータから、地域新電力の雇用創出能力について考察します。


小さな自治体には小さくないインパクトがある


 地域新電力の先行事例として注目される中之条パワー(群馬県中之条町)の被保険者数はわずか2名です。2名と聞くとわずかな人数だと感じてしまいますが、中之条町の人口は15052人(21年5月)なので2名の雇用創出は決して小さくないインパクトと言えるでしょう。また、葛尾創生電力の被保険者は5人ですが、福島県葛尾村の人口は1387人(20年4月)なので人口の3.6%に相当します。


群馬県中之条町の大岩フラワーガーデン

群馬県中之条町の大岩フラワーガーデン(石窯ピザを食べられる)

 わずかな雇用しか創出しない場合でも、小さな町や村にとっては決して小さくない「効果」と言えるのではないでしょうか。


 一方、人口79.8万人の浜松市で設立された浜松新電力の被保険者数が1人、人口106万人の山形県で設立された「やまがた新電力」が同5人というのは、雇用創出効果としては小さなものと言えるでしょう(出資元からの出向者なども従事しているとみられますが)


電力小売だけでは大きな雇用創出は難しい


 被保険者数が10人を超える「地域新電力」は、いずれも新電力事業(電力小売事業)以外の事業を展開しており、そこで多くの雇用を抱えているものとみられます。


 地域新電力に限らず、新電力事業はあまり人手が掛からないビジネスです。以前、家庭向けに10000件以上の契約を抱えている新電力から聞いた話では、役員からパートまであわせて10人以下の人数で事業を行っているとのことでした(一部業務を東京の会社に外注するなどしているとも)


 新電力事業は薄利のビジネスであるため、雇用を増やそうとするとコストが増えることで他社との競争に勝てなくなります。新電力事業だけで大きな雇用を創出するのは難しいと言えるでしょう。




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