「最安」を謳う新電力会社が最安でない問題
電力自由化を機に参入した新電力会社の一部には、公式サイトなどで「最安値水準」とか「最安」と謳っているところがあります。しかし「最安」を謳っている会社が最安値とは程遠い例もあり、これは問題だと思います。
実例を挙げながら、この「偽最安値」問題を深く掘り下げてみます。
目次
最安と言っている新電力会社の実例
まずは実例を紹介します。いずれも法令上問題があると指摘するものではありません。
滋賀電力
公式サイトの料金プランを掲載しているページに「最安価格」と表示しています。
ですが実際には、条件として示されている月350kWhで試算すると例えばF-Power社の「ピタでん」と比較して年間10454円高く、またあしたでんきと比較しても9194円高いです。当サイトの電気料金シミュレーションでは滋賀電力のプランよりも料金が安いプランを77プラン掲載(2019年7月現在)しており、最安はおろか最安値水準とも言い難いです(159プラン中78位)
滋賀県内に本社を置く会社に限定しても、コープしがの方が4291円安いので、やはり最安値とは言えません。
当サイトでは滋賀電力の料金プランを2016年3月頃から掲載していますが、過去に遡ってみても、滋賀電力が月350kWhの条件で「最安」だったことは一度も無いと認識しています。
小田急でんき
公式サイトのトップページに「価格は地域最安値級」と記載しています。
前提条件が示されていないため詳細は不明ですが、一般家庭の標準的な使用では最安値とは程遠い料金プランです。
例えば30A/348kWhで試算した場合、小田急でんき「プランS」はエルピオでんきと比べて年間3835円高いです。また、40A/月391kWhで試算しても、小田急でんきの「プランM」は熊本電力と比べて年間10561円高いです。いずれも小田急にのみセット割引を加算しても、「最安値級」の他社よりも割高です。
中国電力
旧地域独占の大手電力会社です。首都圏向けプランについて、公式サイト上で「首都圏で最安値水準」としています。
条件として示されている「40A/月150kWh」で試算すると、中国電力のプランは東電従量電灯Bと比較して年間4919円安。当サイトの料金シミュレーションで同条件に対応しているプランは277プランありますが、その中で上から6番目に安い(2019年7月現在)です。最安値と言えば嘘になりますが、「最安値水準」というのは必ずしも問題は無いと思います。
エルピオでんき
公式サイト上で「最安値価格電力」や「電力料金値引き額第1位」といった表現をしています。
条件として東電従量電灯Bの300kWh、400kWh、500kWh、700kWh、また2016年6月15日時点、価格.comの電気料金比較での試算を根拠にしているようです。
過去データを詳細に残しているわけではないので詳しい検証は出来ませんが、2016年当時「価格.com」の料金比較でエルピオでんきは最上位に表示されていた記憶があります。また、2019年7月現在においても、当サイトの料金シミュレーションでは1位(30A/300kWh・267プラン中)、4位(40A/400kWh・277プラン中)、3位(50A/500kWh・276プラン中)となっており、最安値水準であることは否定しません。
ただし2019年現在で2016年時点を前提としている点には問題が無いと言い切れない部分があると思いますし、また最安値水準であっても「最安値価格」とは言えないのは上で示した通りです。
ニチガス
新聞折込広告で電気代・ガス代について「業界最安値への挑戦」と表現しています。
ガス料金プランについてはENEOS都市ガスやレモンガスの方が安いですし、また電気についても例えば熊本電力と比較して年間6572円高い(ニチガスにはセット割引を適用)ので最安値水準とは言い難いです。
景品表示法ではこのような「最安値に挑戦」とか「最安値を目指す」といった表現は直ちに違反になるわけではないため、法律上はシロなのかもしれませんが、消費者に誤解を与える点を考えると良くない表現だと思います。
格安電力
2019年7月時点で確認したところ削除されていましいたが、2019年1月に確認したところ「地域最安値宣言」などと公式サイト上に表記していました。
実際にはどの地域でも、大手電力会社と比較して1%前後しか安くならない料金プランなので、最安値とは程遠いです。例えば東京電力エリアで50A/437kWhの場合、東電より0.99%・年間1496円安と、当サイトに掲載している中では276プラン中214位です(2019年7月現在)
現在はこうした誤解のある表現をやめているようなので、その点は評価したいです。
「最安」と表現することへの問題点
実例をふまえて、問題点を整理します。
統一の基準が必要では
電気料金プランの「最安」は条件によって大きく変動します。例えば使用量が同じでも、契約アンペア数が違えば料金比較上位の「最安値水準」がガラりと入れ替わることは珍しくありません。
いまのところそのような事例では見られませんが、例えば通常の使用ではありえない条件での試算結果をもとに「最安値」と言い張る新電力会社が登場しないとも言い切れません。例えば2人世帯の標準使用量は○○kWh・30Aといった形で基準を設けることで、恣意的な条件の設定を防ぐことができます。
監督官庁は何と言っているのか
実は以前、最安値とは程遠いのにもかかわらず「最安値水準」と言っている新電力会社について、問題は無いのか経産省の電力・ガス取引監視等委員会に確認していただいたことがあります。
その際の回答としては、『「最安値」と断言しているわけではなく、契約締結時に料金について適切に説明を行っている場合には、この表現をもって、電気事業法の規定に違反するとは言えず、直ちに問題があるとはいえないものと思われます。』とのことで、電力自由化の制度上直ちに問題があるとは言えないとの判断をお示しいただきました。
とはいえ、最安値でないにもかかわらず「最安」と断言しているケースについては、景品表示法が定める「有利誤認表示の禁止」にあたる可能性があるのではないか、と思います。新電力会社には法令遵守と消費者の権利の保護を求めたいです。
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