大手電力会社が電力自由化を呑み込む?
大手電力会社(旧一般電気事業者)が自ら新電力を設立したり、あるいは新電力に「出資」する例が相次いでいます。主な案件を紹介した上で、こうした流れの問題点を指摘します。
目次
大手電力会社が設立・出資する新電力
家庭向けに電気を供給している新電力の中で、大手電力会社が設立したものや出資を受けているものを紹介します(出資比率は設立・出資当初のもの)
東京電力系
会社名 | 出資比率 | 設立・出資時期 |
---|---|---|
TRENDE(あしたでんき) | 100% | 2018年3月 |
PinT | 60% | 2018年5月 |
ニチガス | 3.01% | 2018年3月 |
電力自由化に積極的なのが東京電力です。自社で家庭向けに2ブランド立ち上げたほか、ニチガスとタッグを組んでガス自由化でも顧客の獲得に力をいれています。
TRENDE設立時の記者会見では「他社に取られる前に自社でやる」と同社役員が発言したとおり、共食いも辞さない構えです。
中部電力系
会社名 | 出資比率 | 設立・出資時期 |
---|---|---|
Looop | 10.25% | 2018年9月 |
CDエナジーダイレクト | 50% | 2018年4月 |
上で紹介した意外にも、2000年に三菱商事と共同でダイヤモンドパワーを設立しています。「ローソンの電気」として知られるまちエネ(MCリテールエナジー)はダイヤモンドパワーから電気を調達し、関東エリアの家庭に電気を供給しています。
CDエナジーダイレクトは大阪ガスと共同で設立し、「あなたでんき」のブランド名で展開するほか、東急パワーサプライの顧客にガスを供給しています(東急ガス)
まちエネ、CDエナジーダイレクトともに関東エリアで展開しており、首都圏での顧客獲得に力を入れていることが分かります。他方、火力発電の分野では東京電力と共同でJERAを設立し、協力関係にあります。
関西電力系
会社名 | 出資比率 | 設立・出資時期 |
---|---|---|
ケイ・オプティコム(eo電気) | 100% | 1988年 |
関西圏で知名度のある「eo光」や、格安SIMとして知られる「mineo」を展開するケイ・オプティコムは関電の子会社です。2016年から家庭向けに電気を供給しています。
東北電力系
会社名 | 出資比率 | 設立・出資時期 |
---|---|---|
東急パワーサプライ | 33.3% | 2018年3月 |
東急線の沿線で顧客を獲得している「東急でんき」に東北電力が出資しています。同社は東京電力から役員を受け入れるなど関係が深いと見られていたので、東北電力からの出資は意外だと感じた関係者が多いのではないでしょうか。
九州電力系
会社名 | 出資比率 | 設立・出資時期 |
---|---|---|
九電みらいエナジー | 100% | 2014年7月 |
再エネの開発促進を目的とした子会社を設立し、関東エリアの家庭に電気を供給しています。小売の電源構成は再エネ比率を公表していないため、関東攻略の別働隊という性格が強いです(再エネの発電は手がけているが)
問題点もある
こうした動きに対しては、問題点を指摘する声も上がっています。
電力の「寡占化」が進むとの指摘も
信用がある大手電力会社が新電力のバックに付くことは新電力の信用向上や、経営の効率化(電源調達で有利になるなど)のメリットもありますが、懸念の声も上がっています。
日本に先んじて電力自由化が進められてきた国々では、大手エネルギー企業にシェアが集約される結果となっています。例えばイギリスでは「ビッグ6」と呼ばれる大手6社が小売の9割を独占。
携帯電話事業では寡占が料金高止まりの原因の一つだと言われていますが、電力においてもプレイヤーの数が減ることが、電気料金の上昇などの悪い結果を招く可能性は否定できません。
料金以外の部分にも目を向けるべき
電力自由化では、消費者の関心は「料金」にばかり向いています。ですが、それでは結果として大手による寡占を進め、かえって電気料金が割高になる未来を生み出してしまうかもしれません。
例えばドイツでも大手が多くの電力小売りのシェアを握っている一方、シュタットベルケと呼ばれる自治体が設立したインフラ運営企業が数多く存在しています。
シュタットベルケの多くは自治体が関与しており、電力事業では「地産地消」を目指したものも多くあります。単に料金の安さを求めるのではなく、地域社会での経済の循環という目的に共感した消費者を集め、その多くが電力事業で黒字を維持しているといいます。
日本でも、こうしたシュタットベルケを手本とした地域新電力を設立する動きが活発化していますが、消費者が電気料金以外にも目を向けて電力会社を選ぶことが、結果として消費者自身の利益につながるのではないでしょうか。
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