原発事故への反省が全く見えない電力業界の最新事情
2011年に起きた甚大な原発事故。しかし電力業界からは原発事故への反省の色が見えず、事故をふまえて設けられた安全基準への批判が巻き上がっています。反省しない彼らの最新動向を紹介します。
目次
原発をめぐる電力業界人たちの発言
原発をめぐる電力業界からの平均的な「声」をまとめます。
元東電社員 竹内純子氏発言
Youtubeチャンネル「PIVOT」に出演していた元東電社員で現在はエネルギーの研究を行っているという竹内純子氏の発言をまとめます。
前後の動画を含めて安全性を軽視した発言が目立ちますが、中でも私が気になった箇所を抜粋します。
安全基準が引き上げられました全国の原子力発電所はその基準に合うまで動かしてはいけません。それって一般的ではないですよね。例えば地震の時の耐震基準が建物に対して引き上げられました、この建物が適合していませんということになった時に、その瞬間にこの建物使用禁止にしますか。
新しく建てるときは新しい基準でしないといけないけれども、古い建物については例えば何年以内に改修をするとか、そういう猶予期間が設けられて現実世界と馴染ませるわけじゃないですか。それが原子力発電については、新しい基準ができました、今からこれに合っていない原発は動かしちゃいけませんということで全部止めました。
だかかこの間、日本が払った原子力止めて火力発電動かした訳ですからこの火力発電の燃料コスト何十兆円ってなるわけです。事故が起きてはいけないということだから仕方がないとは言ってもそれを判断したのは原子力規制委員会の委員長の私案なんです。
これをね、国会で何十兆と化石燃料代を払おうと国会が判断したのなら私も全然何の文句も言わないですよ、国民の選択だから。なんだけど、委員長の私案でそれが決まっちゃってる。ちょっと行政組織としては私は成熟していない部分が少なくとも当時はあった、それで流れていっちゃってる。それで文句を言う人がいないじゃないですか。
まず、事故を起こしたことで広範囲に影響を及ぼし、今も数万人を超える人々が生まれ育った、住み慣れた故郷への帰還を果たすことが出来ていない事実が存在します。そのような事故が起こり得る、実際に事故が発生した原子力発電所について、一般の建造物の既存不適格(耐震基準不適合)と同列に論じることは原発事故がもたらした結果を軽視していると言うほかありません。
X(Twitter)上では、電力会社社員を名乗るアカウントが竹内純子氏と同様に「規制を後出しするな」などと発言している例が目立ちます。電力業界特有の意見とみられます。
また、原発の稼働停止について規制委員会の委員長の私案でと批判していますが、三条委員会の設置は「それ自体として独自に国家意思の決定を行い、外部に表示する機関」と定められているものです。
原子力規制委員会という三条委員会で決定を経たことに対して問題があるのであれば、行政訴訟の提起や国会で三条委員会の権限の範囲の変更を行うなどの対応を行えばいいのであって、「それで文句を言う人がいないじゃないですか」と当人も指摘しているとおり、これが我が国の意思と言って問題は無いはずです。
電気事業連合会公式サイト掲載内容
大手電力会社10社の業界団体である電気事業連合会が、2018年ごろに公式サイトで公開していたコンテンツの一部を引用します(現在はコンテンツが削除済み)
「え、ここまで厳しいことを要求しているんだ」と客観的に思ってしまうようなことも、どんどん電力会社に要求しているね。(中略)
通常の業界では考えられないようなレベルの高い要求が多い引用元:今では日本の審査基準は世界一厳しい!?(電気事業連合会)
大人が「放射性物質」の仕組みなどを理解せずに、雰囲気だけで判断したり話したりするから、いつまで経っても教育は機能しないし、教師や親が教えられないと、風評的ないじめはなくならない
引用元:「人はご飯を食べるごとに被ばくしている」って本当?(電気事業連合会)
日本は「資源なき経済大国」なのです。だからこそ、日本経済を支え続けるためには「国民の教育水準の底上げ(=正しくわかりやすい情報が整備され、各自が自分の頭で考え判断する力をアップできる状態)」と「安定的なエネルギーの確保」が常に重要な課題
引用元:日本のエネルギー資源はどれだけ海外から買っているの?(電気事業連合会)
現在は記事が削除されているため、ご覧になりたい方はWebarchiveでご覧ください。
原発事故をふまえて新たに設けられた新安全基準に対して厳しすぎると批判しています。
なお、このコンテンツは関西電力の公式サイトにもそのまま掲載されていました。
現在の安全規制を生かした原発の活用が必要
以上をふまえて、私の意見をまとめます。
事業者からの不満は規制が正常に機能している証拠
事業者側から「規制が厳し過ぎる」との意見が噴出していることを鑑みると、原発事故をふまえて新たに設けられた体制は正常に機能していると言えるでしょう。
電気事業連合会のウェブサイト上にも『他国に例がないほどの厳しい「想定外」への対策が続けられているから、今では日本の原子力発電所の審査基準は、「世界で一番厳しい条件」と言えるような状態になっているんだよ』と記載がある通り、我が国の安全基準は世界でも最も厳しいものと言ってよいです。
安全基準に適合した原発は速やかに稼働すべき
こうした世界で最も厳しく、事業者側からは暗に「客観的でない」と批判されている安全基準に適合した原子力発電所は、速やか稼働すべきだと思います。
原子力発電は発電時にCO2を排出しないことから、脱炭素電源として我が国でも重要な電源として位置づけられています。発電量が天候に左右されやすい太陽光発電や風力発電とは異なり、発電量のコントロールも容易です。かつ、事故が発生した際の賠償などの費用を考慮しても、発電コストが安いとされている石炭火力発電並に発電コストが安いです(経済産業省ワーキンググループ)
電源 | 2020年の電源別発電コスト 経産省ワーキンググループ試算 |
---|---|
石炭火力 | 12.5円/kWh |
LNG火力 | 10.7円/kWh |
原子力 | 11.5円/kWh |
石油火力 | 26.7円/kWh |
陸上風力 | 19.8円/kWh |
洋上風力 | 30.0円/kWh |
太陽光(事業用) | 12.9円/kWh |
太陽光(住宅) | 17.7円/kWh |
太陽光や風力発電のコストも年々低下していますが、発電量が一定でない問題を解決するためには蓄電池などの導入が必要不可欠です。蓄電池も年々低価格化が進んではいるものの、蓄電システムと組み合わせた再生可能エネルギーの「コスト」では採算が取るのが難しく、電気代の値上がりを招く恐れがあり、安価に脱炭素化を進めるには原子力発電の活用が不可欠と言えます。
我が国も原発事故から10年の時を経て、少しずつ原発の活用を進めていく方針に転換しつつありますが、事業者側の不誠実な態度は国民の不安を増幅させ、結果として原発の活用を遠のかせる結果に繋がることを懸念しています。
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