原油価格暴落でも電気代が大きく下がらない理由とは
2020年4月現在、原油価格の「大暴落」が注目を集めています。そうした逆オイルショックとも言うべき現象が日本の電気代に与える影響を分かりやすく解説します。
目次
石油火力発電を減らしてきた日本
まずは石油や原油について関連する情報を解説します。
現在は電源構成の9%が石油火力
日本は1970年代に起きた2度のオイルショック以来、それまで電力供給を依存してきた石油火力発電からの脱却を国策として推進してきました。代替策として原子力や天然ガス、あるいは一時は日本メーカーが世界を席巻した太陽光エネルギーなどへの転換が進められました。
その結果として足元では石油火力発電が日本の電源構成に占める割合は9%(2017年度)と、1980年の46%から大幅に低下しています。
現在の日本の電力供給の主力は天然ガスと石炭火力発電です。
高コスト・CO2排出量も多い
石油火力発電は発電コストが高く、またCO2排出量が多いという特徴があります。
例えば昨今注目されるLNG火力発電は1kWhあたり13.7円(2014年モデル)で発電することが出来ますが、石油火力発電は30.6〜43.4円と2倍以上です。30円というのは家庭向けの電気の販売価格よりも高価であり、現在は石油火力発電所の多くは電力需要のピーク時の稼働が中心となっています。
石油火力発電の発電コスト30.6〜43.4円の内、燃料費は21.7円とされています。仮にこの燃料費の部分が3分の1の7.2円まで低下したとしても、トータルの発電コストは16.1〜28.9円とLNG火力発電を上回り、競争力があるとは言えません。
また、CO2排出量の点でも石油火力発電は石炭火力発電と比較すると排出量は少ないものの、LNG火力発電と比較して大幅に多く、環境負荷の面でもデメリットが大きいです。
原油価格「暴落」が与える電気代への影響は?
原油価格の暴落が電気代に与える影響を解説します。
燃料価格を電気代に反映する燃料費調整制度
日本のほとんどの電力会社・新電力会社では、燃料費調整制度といって燃料価格(石油、LNG、石炭)の輸入価格の増減を毎月の請求額に反映する仕組みを取り入れています。
「貿易統計」による燃料の平均輸入価格に応じて、定められた計算式で求められた単価を使用量に掛けた額を請求額に上乗せor割り引くことで調整を行っています。詳しくは以下の記事で詳しく解説しています。
なお、2020年5月分の燃料費調整は2019年12月〜2020年2月の平均輸入価格で計算されるため、原油価格が大きく値下がりした3月以降の情勢は反映されていません。
直近の「暴落」の影響は月96円
財務省貿易統計の速報値での原油の輸入価格は以下のとおりです。
時期 | 円/kl |
---|---|
2020年3月上旬 | 46350 |
2020年3月中旬 | 41764 |
2020年3月下旬 | 39387 |
2020年3月 | 42451 |
2019年11月〜2020年2月 | 47558 |
3月でも上旬と下旬では価格が大きく異ることが分かります。なお、2020年5月分の燃料費調整単価を計算する際に用いられた2019年12月〜2020年2月の原油の平均輸入価格は47,558円/klでした。
東京電力エナジーパートナー(関東)の燃料費調整単価は2020年5月分が-2.04円/kWhでしたが、LNGと石炭価格を固定、石油を3月下旬分の39387円/klで計算すると-2.41円/kWhとなり、0.37円/kWh分の押し下げ効果となります。
一般家庭の平均的な使用量(月260kWh)に当てはめると、原油の暴落分(3月下旬まで)による電気代の押し下げ効果は5月適用分と比較して月96円となります。ただし、燃料費調整は3ヶ月分の平均で計算されるため、安値が続いた場合でも6月分からそれが一気に反映されるわけではありません。
4月以降の更なる大暴落を反映した統計がまだ出ていないため今後の先行きは不明ですが、仮に原油の平均輸入価格が3月下旬から更に2割下落して31509円/klになると、燃料費調整単価は-2.78円/kWhとなり、5月分と比較して192円の値下がりとなります。
平均輸入価格(原油) LNG石炭は固定 |
燃料費調整単価(東電) |
---|---|
47558円/kl 2019年11月〜 2020年2月 |
-2.04円/kWh |
39387円/kl 3月下旬水準 |
-2.41円/kWh |
31509円/kl | -2.78円/kWh |
ちなみに、多くの新電力は各地域の大手電力会社と同じ燃料費調整額を採用しており、新電力と大手電力の電気料金の差は燃料費調整額の変動に関係なく一定です(一部、独自の単価を採用しているところがあり、それに関しては例外)
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