石油危機が電力不足を招くという「誤解」
不安定化する中東情勢。ホルムズ海峡の封鎖等による石油危機の発生が懸念される中、石油危機が日本の電力不足を招くとの論調が見られます。しかしそれは「誤解」です。なぜ誤解といえるのか、解説します。
目次
石油危機で電力不足になるとの懸念の声
まずは石油危機で日本が電力不足になるとするメディア主張を見てみましょう。
WebメディアPIVOTが2024年4月21日に公開した「【石油危機と円安危機。日本経済の悪夢シナリオ】引くに引けないイランとイスラエル/ネタニヤフの狙い/最も悪影響を受ける日本/計画停電の恐れ/原油高と円安が連動/155円で介入する」とする動画です。
この中で経済アナリストのジョセフ・クラフト氏が石油危機により日本が計画停電を強いられるとの主張を行っています。では、中東情勢の不安定化による石油危機が電力不足を招く可能性はあるのか、以下で詳しく解説します。
石油危機で電力不足になるリスクは低い
結論を先に述べると、石油危機による電力不足リスクは低いと言えます。その理由は以下のとおり。
石油火力発電の依存度が低い
石油の輸入した場合、石油火力発電所の燃料が尽きることで電力不足に陥ることが懸念されます。しかし日本は石油火力発電による発電に依存していません。
上記のグラフは2021年度の日本の電源構成を示したものです(データ出典:電気事業連合会) 石油火力発電が占める割合は7%と低いです。
日本ではオイルショックをきっかけとして1970年代以降、石油火力発電所の新設が原則認められていません。多くの石油火力発電所は老朽化し、廃止されるところが増えています。
石油火力発電は燃料コストが高いことから他の燃料を使用する火力発電と比較して発電コストが大幅に割高です。
2020年度時点での電源別発電コストの比較では、石油火力発電の発電コストは1kWhあたり26.7円と、LNGや石炭の2倍を超えます。家庭の電気料金は1kWhあたり30円程度とされており、電気を送るためのコスト(託送料金)なども含めると、平時に石油火力発電で作られた電力を販売しても採算が合わない状況です。そのため、現在の石油火力発電は電力が不足する季節・時間帯を中心にのみ稼働しており、設備利用率は日本全体で15%程度(2019年:資源エネルギー庁)に留まります。石油火力発電所は年間で55日前後しか稼働していないことになります。
200日分の国内備蓄
電源構成に占める割合はわずか7%とはいえ、石油火力発電は電力需要のピーク時の供給を支える上で現在も重要な役割を担っている事実があります。石油火力発電所が燃料不足に陥った場合、「いつも通り」の生活が出来なくなり、時間帯を限定した大幅な節電が必要になることは避けられないでしょう。
一方で、日本国内には国内消費量の約200日分の石油備蓄が存在します。輸入が完全に滞ったとしても、200日間は国内備蓄で乗り切ることができます。
石油の調達は世界経済の生命線と言えます。石油の輸送に重大な支障が生じた場合、少なくとも数ヶ月以内には国際社会による何らかの解決がなされる可能性が高いと言えます。200日という猶予がある日本への影響は小さいと言えます。
「石油以外」の中東依存度が低い
日本の電源構成に占めるLNG(液化天然ガス)による発電は34%、また石炭火力による発電が31%を占めます。この点に関しても、中東危機による輸入の停滞懸念を持つ方もいるでしょう。
しかし日本が輸入している石炭の中東依存度は0%、またLNGに関しても約2割と中東依存度が低いです。石炭に関しては中東情勢による直接の影響を受けませんし、LNGに関しても価格の高騰懸念はあるものの、オーストラリアやマレーシアなどに産出国が分散していることから日本が十分な量を輸入出来なくなる可能性は低いと言えます。
エネルギー危機の懸念は否定できない
石油危機は電力不足を招くリスクが低いことはこれまで説明した通りですが、万が一石油の輸入が長期間停止した場合に自動車による輸送や工業分野が影響を受けるリスクが存在するのも事実です。
また、原油の高騰は石炭や天然ガス価格の高騰を招く場合もあり、エネルギーコストの急上昇を招く可能性が大きいです。その点でも、中東危機による石油危機が発生した場合は世界中、そして日本の市民の生活にも一定の影響が生じる可能性は否定できません。日本国内では節電やマイカー使用の「自粛」ムードが一時的に高まり、郊外のレジャー施設などが打撃を受けることになるでしょう。
経済活動の停滞を引き起こさないよう、例えば単に節電を呼びかけるのではなく「家の電気を消して晩ごはんを外に食べに行こう」といった呼びかけを行うことを平時から検討するべきではないでしょうか。
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