電力難民問題、個人への影響は?
報道などで取り沙汰されている「電力難民」問題。個人ユーザーへの影響はあるのか、最新の動向をもとに解説します。
目次
高圧電力で取り沙汰される「電力難民」問題
電力難民問題を解説します。
契約先が見つからない
2022年春以降、主要な新電力・大手電力会社が相次いで法人向けの高圧電力・特別高圧電力の新規申込受付を停止させています。停止だけでは終わらず、一部の新電力は電力事業の終了や顧客への「解約」を一方的に通知しているという状況です。
大手電力でも高圧・特別高圧電力の新規申込受付けを停止したため、高圧・特別高圧電力を使用する大規模な工場や商業施設などでは電力の契約先を見つけることが出来ない状況が生じています。
なお、契約先が見つからない場合は「最終保障供給約款」という仕組みを利用することで、大手電力会社から電気の供給を受けることが出来ます。最終的なセーフティネットは確保されていると言えます。また、2022年8月頃から一部の新電力・大手電力が新規申込受付けを再開する動きも出ています。高圧・特別高圧に関する情報は以下の記事で解説しています。
なぜ契約先が見つからないのか
新電力・大手電力が相次いで高圧・特別高圧電力の新規申込受付けを停止したり、販売から撤退している最大の理由は電力取引価格の高騰です。下表は日本卸電力取引所における東京電力管内向けの電力取引価格の月間推移です。
東京エリアプライス (円/kWh 税抜き) |
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 |
---|---|---|---|---|---|---|
2020年 | 8.17円 | 7.59円 | 7.48円 | 6.85円 | 5.75円 | 5.57円 |
2021年 | 66.53円 | 8.29円 | 6.70円 | 7.05円 | 6.98円 | 7.02円 |
2022年 | 23.95円 | 23.36円 | 30.76円 | 21.65円 | 19.50円 | 25.27円 |
2021年秋頃から電力の取引価格が高騰を続けており、電気の仕入れ価格が高圧電力の販売価格を遥かに上回る状況が長期間にわたって続いています。既存のお客さんへの電力供給だけでも「大赤字」となるため、新規でお客さんを受け付ける電力会社が消え去ってしまいました。
電力取引価格高騰の要因としては以下の2つを指摘できます。
- 燃料価格高騰
- 電力需給の逼迫
LNG(液化天然ガス)、石炭、石油の輸入価格が急上昇したことで発電コストが上昇し、電力取引価格を底上げしています。
個人(家庭向け)では電力難民は発生していない
法人向けの高圧・特別高圧電力で取り沙汰される電力難民問題は、個人向け(家庭向け)では現状発生していないといえます。
新規で申し込める新電力は全国で存在
2022年春頃から個人向けの電力についても新規申込受付けを「一時停止」する新電力や、あるいは個人向けの電力販売から「撤退」、料金を「値上げ」した新電力は相次いでいます。新規申込を一時停止した新電力は私の調べで60社以上にのぼります(2022年8月現在)
新規申込受付を停止している新電力が存在するのも事実ですが、現時点において新規申込み出来る新電力も全国すべての地域に存在しています。2021年以前と比べて選択肢が狭まっているのは事実ですが、とはいえ選択肢はまだまだあると言える状況です。
大手電力も申込受付けを継続中
大手電力各社も個人向けの料金プランの新規申込受付けは継続しています。
また、大手電力は法律により供給義務を課せられているため、仮に全ての新電力が個人向けの新規申込み受付けを停止したとしても選択肢は残されることになります。
法人向けとの違いは?
個人向けよりも法人向け(高圧・特別高圧)の方が選択肢が限られており、状況が深刻と言えます。その原因として指摘できるのが、電気料金の単価です。
高圧・特別高圧電力は契約1件あたりの電気の使用量が莫大に大きいため、料金単価が家庭向けと比べて大幅に割安に設定されていました。また、家庭向けよりも早く電力自由化が行われたため価格競争が激しかったことも料金単価が安い一因でした。
ですが個人向けも法人向けも、販売する商品(電力)自体は同じものです。仕入れ価格が同水準であるため、販売価格が安かった高圧・特別高圧電力の方が先に、より深刻なダメージを受けているというわけです(実際には仕入れ価格だけでなく、「送料」などのコストにも差がある)
これから電力会社を選ぶ際の注意点
家庭向けでは今も新規で申し込める電力会社は多数存在していますが、選ぶ際に注意点があります。
電気料金には電気料金本体(基本料金+電力量料金)に加えて、燃料費調整額という項目があります。燃料費調整額は燃料の輸入価格の変動を毎月の電気料金に転嫁するものです。
大手電力の標準プランである「従量電灯」では、燃料費調整に上限が設けられています。2022年2月以降、燃料費調整額がこの上限に達する地域が増加を続けており、2022年10月分では全ての地域がこの上限に達する見込みです。
一方、多くの新電力と、大手電力の新しい料金プランにはこの上限がありません。そのため燃料価格額の推移によっては、大手電力の従量電灯よりも電気代が高くなるケースが続出しています。
燃料費調整単価 2022年9月分 |
電気料金への影響 月300kWhの場合 | |||
---|---|---|---|---|
上限あり | 上限無し | 差 | ||
東京電力エリア | 5.13円/kWh | 6.50円/kWh | 1.37円/kWh | 411円(負担増) |
関西電力エリア | 2.24円/kWh | 6.14円/kWh | 3.90円/kWh | 1170円(負担増) |
中国電力エリア | 3.19円/kWh | 9.43円/kWh | 6.24円/kWh | 1872円(負担増) |
一部の電気料金比較サイトではこの燃料費調整額の部分を適切に考慮せず試算を行っているため、注意してください。また、現在新電力や大手電力の新しい料金プランを契約している方も見直しをおすすめします。
今から電力会社を契約する場合は、燃料費調整に上限を設けている料金プランを推奨します。
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