今後、タワマンの課題として浮かび上がる課題とは
都心などで年々増加しているタワーマンション。投資対象としても注目を集めていますが、エネルギー面から今後様々な課題が浮かび上がる可能性があります。実際にタワーマンションに居住し、管理組合で理事を務めている私が問題点を指摘します。
目次
タワマンが不利に働く不安要素
タワーマンションが今後抱えることになる課題を紹介します。
共用部での電力消費量が著しく多い
電気代高騰が著しかった2022年に既に一部のタワーマンションでは問題としてクローズアップされていたようですが、タワーマンションの共用部分では非常に多くの電気を消費します。
電気を「爆食い」するタワマン共用部
タワマン 共用部 |
低層マンション 共用部 | |
---|---|---|
使用量(月) | 244kWh/戸 | 40kWh/戸 |
備考 | 空調あり内廊下 | 共用部空調無し EVあり(EV分込み) |
私の過去の試算では、低層小規模マンションの共用部と比較してタワーマンション共用部は1戸あたりの電気消費量が6倍にのぼります。我が家が1棟所有している小規模低層マンションの共用部では1戸あたり月40kWh(4月分)の電気を消費していますが、私が居住しているタワーマンションでは1戸あたり244kWh(同じく4月分)の電気を消費しています(プールなどの豪華設備が無いマンションです) 内廊下マンションなので、空調を使用する時期には更にその差は大きくなるでしょう(小規模低層マンションでは一部の高級物件を除いて内廊下に空調は無い)
内廊下の空調に気を取られがちですが、タワーマンションでは上下100m以上の高さを日夜行き来し続ける高速のエレベーターや、同じく100m以上の高さまで水道水を組み上げる揚水ポンプなどでも多くの電気を消費しています。エレベーターの稼働状況は防災センターでモニタリングしていますが、以前マンションの防災センターに見学に行った際に制御盤を眺めていたところ、エレベーターは「常時」、最低でも1基が動き続けている状況でした(平日昼間)
今後の電気代上昇による影響は小さくない
世界的にみて、電気代は長期的に上昇する傾向にあります。温暖化対策のための発電方法の低炭素化や、再生可能エネルギーの導入促進のための送電網の強化といったコスト上昇要因があるためです。化石燃料採掘のための投資が絞られる傾向もエネルギー価格の上昇リスクを増加させています。
2022年の時点で既に電気代上昇が管理組合の会計を圧迫し、電気代の値上げを検討・実施したタワーマンションもあると聞いていますが、今後も長期的に電気代の上昇がとりわけタワーマンションの管理組合の会計を圧迫していく可能性は低くないと言えます。電気を多く使う分、小規模低層マンションよりもタワーマンションの方が電気代上昇の影響をより大きく受けることになります。
電気自動車の充電器の設置が難しい
今後普及が加速する電気自動車
2023年上半期の国内新車販売台数に占める電気自動車の割合は、わずか2%です。自動車の寿命は10年程度なので、日本の道路を走る自動車に占める電気自動車の割合は2023年時点で1%にも及びません。
ですが今後、日本国内でも電気自動車やコンセントによる充電を必要とするプラグインハイブリッド車の増加が見込まれます。トヨタ自動車は2026年までに電気自動車の車種を10モデル投入し、年150万台販売する方針を発表。スバルも2028年末までに8車種の投入計画を発表しており、2026〜28年にかけて日本国内でも急激に電気自動車の販売が加速することが見込まれています。
充電インフラが課題となる
そうした急速な状況の変化の中で問題となるのが充電インフラの整備です。現状あるいは今後数年内の技術では、電気自動車の充電(満充電ではなく一定以上の走行に必要な充電)には少なくとも15〜30分以上の時間を必要とします。自宅に充電器が無く、外出先で充電する場合、多くの時間を奪われる恐れがあります。
高速道路のサービスエリア等で休憩中に充電することで充電に掛かる時間は実質ゼロになるという主張もありますが、現実には休日のサービスエリアの充電器には「待ち」が生じているケースも既にあり、自宅に充電器が無いことは電気自動車の利便性を大きな低下を招くことが避けられません。
サービスエリア等での充電設備の増強も急速に進められるとはいえ、お盆などの混雑時期も含めて十分な台数の充電設備を用意することは現実的ではありません(急速充電器は車が買えるほど高額)
8月上旬土曜11時時点で既にほぼ満車
タワマンでは充電設備の追加が難しいケースも
そこでマンションも含めた集合住宅の駐車場への充電設備の設置ニーズが高まります。タワーマンションの地下駐車場でも、数台分の普通充電器であれば簡単な配線工事だけで設置が可能です。しかし設置できる台数に限りがある場合、1区画でより多くの電気自動車を充電できる急速充電器(短時間でより多く充電できる)を設置する必要があります。
ここで課題となるのが、多額の費用です。地下駐車場では急速充電器の導入に1000万円単位の高額な費用が発生する場合があります。電気の受変電設備から改修を加える必要性や、場合によっては躯体に手を加える(穴を開ける)必要が生じるため極めて多額のコストが掛かります。東京都では2023年度、急速充電設備の導入に最大約700万円の補助金を支給していますが、それでは賄えない費用が発生する恐れがあるため、私が暮らしているタワーマンションでは急速充電器の導入は「難しい」ようです。
低層マンションの方が設置しやすい
一方、低層マンションでは駐車場が道路に面していることが多いため、道路から充電器に直接電気を引き込むことが可能である場合が多いです。通常、電気の引き込みは一地点につき一つとなっていますが、充電設備に関しては「特例需要場所」という特例により建物とは別で電気の引き込みが可能となる仕組みが用意されています。低層・小規模低層マンションの方が充電設備は導入しやすい傾向は否定できないと思います。
また、駐車場の台数自体もタワマンと比べて少ないため、設置する必要がある充電器の台数も少なく済みます。充電器の台数が多くなることで区分が「高圧電力」となり、管理組合の負担でキュービクル(変圧器)を設置する必要が生じる場合がありますが、設置台数が少なければキュービクルが必要無い場合もあるためその点でも低層マンションの方がコストが安く済む傾向があると言えるでしょう。キュービクルを設置するだけでも数百万円の費用が発生します。
2023年以降竣工のタワマンは対策済み?
2023年以降に竣工したタワーマンション(例えばパークタワー勝どき)では、タワーパーキングのパレットに充電器が備え付けられている物件もあり、充電への対応は2023年竣工を境に大きな差が生じると思います。
5年以上先の竣工を目指しているタワマンの関係者(再開発組合役員)を通じて大手ゼネコンの状況を聞いてみましたが、既築のタワマンに充電器の導入がしづらい問題はゼネコンとしても既に把握しているようで、現在研究を行っているとのことです。今後、技術革新や規制緩和によりこの問題が解消・緩和される可能性も無いわけではないと感じていますが、しばらくの間は厄介な問題として残り続ける恐れがあります。
創エネ設備の導入が難しい
電気代上昇への対策として太陽光発電の導入が注目を浴びています。ですがタワーマンションでは太陽光発電の導入が難しいです。
屋上に設置してはどうかと考える方もいるかもしれませんが、タワマンの屋上は地表より風が強いためパネルの設置には適さないと言われています。私が暮らしているタワマンの場合、そもそも空きスペースが全くと言っていいほどありません(給排気設備やヘリが上空でホバリングするためのヘリポート、窓清掃用のゴンドラなどがある)
また、タワマンは1戸あたりの土地の持ち分が小さいことが知られていますが、土地が少ないことはすなわち1戸あたりの屋根の広さも狭いということです。太陽光発電を設置できたとしても、低層マンションと比較して戸あたりの発電容量は小さくなることが必然です。
規模を生かした設備導入の事例も「あるにはある」
タワマンの規模を生かしたエネルギー供給システムを持つマンションもあります。
六本木ヒルズの事例
六本木ヒルズはタワーマンションやオフィスビルなどで構成された一つの「街」です。実はその地下には都市ガスを燃料に発電を行う「火力発電所」が備わっています。
レジデンスも含めた六本木ヒルズのエリアで使われている電力の大部分は、この地下にある発電所で発電しており、六本木ヒルズ内のタワーマンションの各住戸への電力供給も主にこの発電所から行われています。
この発電所では電力だけでなく、ガスを燃やした際に発生する排熱を有効活用し、空調などに役立てています。通常の発電所では捨てられてしまう排熱も有効に活用することで、高効率の発電が行われています。
また、発電用の燃料も約3日分備蓄しており、周辺が停電しガスの供給が途絶えても六本木ヒルズは停電を避けることが出来ます。
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