託送料金の値上げを分かりやすく解説します
ニュースなどで話題になっている「託送料金の値上げ」とは何か。電力自由化の専門家として、これまでに多数のメディア取材を受けてきた私が分かりやすく解説します。
目次
そもそも託送料金とは何か
そもそも「託送料金」とは何か、簡単に説明します。
電気を届けるための「送料」
託送料金を一言で表すと、電気を届けるための送料です。電気という商品を運ぶために発生する費用です。
家庭や事務所などで使う電気は、自家発電でなければ電力会社から購入します。その電力会社というのは電気の「小売」をしている会社のことを指します。関西電力や東京電力エナジーパートナー、ENEOSや東京ガスといった会社が当てはまります。
一方、まちなかに張り巡らされた電線や山間部で見かける送電線のような、電気を使う場所まで張り巡らされた諸々のルート(送配電網)は、送配電会社という会社が所有、管理しています。東京電力パワーグリッド、関西電力送配電といった会社が送配電会社です。
小売をしている会社が、電気という商品をお客さんに届けてもらうために負担している(送配電会社に支払う)費用が託送料金です。
ちなみに、一般家庭が電力会社に支払う電気代のうち約3割が託送料金です。
更に詳しい解説は以下の記事をご参照ください。
全ての電力会社が同額を負担している
託送料金は同じ地域であれば、どの会社も同額を負担することになっています。
例えば関東で電気を販売している東京電力エナジーパートナーも東京ガスもENEOSも、お客さんが使った電気の量や契約容量に応じた「同額」の託送料金を、東京電力パワーグリッドに対して支払う必要があります。
地震や台風で電線が切れるなどして停電が発生する場合がありますが、どの電力会社と契約していても同じように復旧対応を行ってもらうことが出来るのはこういった背景があるからです。
託送料金の値上げについて
本題の託送料金値上げについて解説します。
なぜ値上げされるのか 原因は?
託送料金が値上げされる背景にある主な要因は以下の3点です。
- (電力)需要の減少
- コストの増加(再エネの導入拡大、老朽化対策など)
- 制度の変更
まず一点目が電力需要です。直近数年間は新型コロナの感染拡大の影響もあり、また長期的には省エネルギー化や、あるいは太陽光発電などの自家発電の導入拡大によって送配電網を通過する電力の量が減少しています。託送料金は基本料金部分に加え、使用量に応じて課金されるため使用量が減ることで収入が減少し、収支が悪化します。
二点目がコストの増加です。日本では再生可能エネルギーの導入が急拡大しており、再エネ比率(水力のぞく)は2010年度の2%から2020年度には12%にまで拡大しています。再生可能エネルギーの発電所は需要地から離れた山間部に設置されることが多く、導入拡大には送電線の増設が必要となります。
また、老朽化した設備の更新や、電線地中化などにも多額の費用が掛かります。
三点目が制度の変更です。2023年度から「レベニューキャップ」という新たな制度が託送料金に導入されました。詳細は省きますが、この制度は送配電網に適切な投資が行われることを目的として導入されたものです。送配電事業は赤字体質が続いていたためこの制度の導入によって赤字を解消、裏を返せば利用者の負担が増えることになります。
値上げの影響は? 電気代への影響
2023年春に実施される託送料金の値上げ幅を具体的に見てみましょう。(30A契約)で月300kWhの電気を使う一般家庭をもとに試算しました。
地域 | 月の負担増 (30A契約・月300kWh) |
---|---|
北海道電力ネットワーク | 213円 |
東北電力ネットワーク | 218円 |
東京電力パワーグリッド | 28円 |
中部電力パワーグリッド | 120円 |
北陸電力送配電 | 296円 |
関西電力送配電 | 76円 |
中国電力ネットワーク | 374円 |
四国電力送配電 | 259円 |
九州電力送配電 | 280円 |
沖縄電力 | 487円 |
託送料金は電力会社(小売電気事業者)が送配電会社に支払う料金であるため、利用者側からは見えづらいですが多くの電力会社は託送料金の値上がり分をそのまま上乗せします。一般家庭の電気代への影響額と読み替えることができます。当サイトの電気料金一括比較シミュレーションでは順次対応する予定です。
なお、今回の改定では使用量に対して課金される部分よりも、基本料金の部分の方が値上がり率が大きいです(使用量分は据え置きという地域もある)
今後も長期的に上昇は避けられない
今後も再生可能エネルギー導入拡大のための送配電網の強化が予定されています。現在存在する送配電網に加えて、地域をまたぐ長距離の送電ルートを新設する計画も進んでおり、その費用の多くは託送料金によってまかなわれることになるでしょう。
また、景観対策や防災対策として都市部で進められている電線地中化にも多額の費用が掛かり、これも託送料金によってまかなわれています(東京都の資料によれば道路管理者と電線管理者の負担割合は2:1) 地中化は空中に電線を通す場合(架空線)と比べて10倍のコストが掛かると言われています。
老朽化した設備の更新も進められており、こうした様々な要因によって託送料金は今後も長期的に上昇していくことが避けられないと言えます。
家庭で出来る託送料金の値上がり対策
最後に、家庭でできる託送料金の値上がりへの対策を紹介します。
契約容量を下げる
託送料金は使用量に応じて課金される部分と、契約容量に応じて課金される部分があります(関西、中国、四国、沖縄の一般家庭では契約容量は関係無い場合が多い)
特に2023年春の値上げでは、基本料金部分の値上がり幅が大きいです。したがって、電気の契約容量を下げることで節約メリットが大きくなります。例えば現状で50A契約で1年以上使い続けても、一度もブレーカーが落ちたことが無いのであれば40Aに下げることをおすすめします。
契約容量の変更は多くの場合、無料で行えますが「1年に一度だけ」という縛りがある場合が多いです。下げすぎることで不便が生じないように注意してください。10A下げるだけで電気代が年間数千円の節約になります。
電力会社から購入する電気の量を減らす
託送料金は送配電ルートを通して電気を購入した時に発生します。電気を買うことで発生する費用です。したがって、以下の方法で「節約」することが出来ます。
- 節電
- 自家発電(太陽光発電、エネファームなど)
電気を使う量を減らせば、電力会社から購入する電気の量は自ずと減少します。節電を心がけることで託送料金の実質負担も削減できます。
加えて、自家発電を導入することでも託送料金の負担が減少します。自宅に設置した太陽光発電やエネファーム(家庭用燃料電池)で自家発電した電気には、託送料金が掛かりません。太陽光発電は一般家庭では条件が悪くなければ「元が取れる」と言われているので、築15年未満の戸建て(持ち家)にお住まいの方は設置を検討してみてはいかがでしょうか。エネファームは元が取れないと言われています。
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