太陽光発電の無料設置とは?
一般的に数百万円掛かる家庭の太陽光発電システム。それを「無料で」設置してくれるサービスが少しずつ普及しつつあります。そのメリットやデメリットを詳しく解説した上で、実際のサービスを比較します。
太陽光発電を無料で設置出来る仕組み
冒頭でも紹介したように、住宅用の太陽光発電システムは新車が買えるくらいの高額な商品です。それを無料で設置する「ビジネス」が成立する仕組みはこうです。
国の制度として、太陽光発電でつくられた電気(余剰電力)を買い取る「固定価格買取制度」というものがあります。
この制度を利用すると、住宅の太陽光発電システムでつくった電気のうち、家庭で使いきれなかった分を「決まった金額」で電力会社が買い取ってくれます。
買い取り期間は10年で、買い取り単価は26円/kWh(平成30年度設置分)です。
自腹で太陽光発電を設置する場合は、売電収入は所有者(ユーザー)の懐に入るわけですが、無料設置の場合は設置業者に全額入ります。売電収入で設置費用をまかない、収益を上げるビジネスモデルです。
発電パネルを始め、発電システムは設置業者が一定期間保有します。
ちなみに、アメリカでは住宅用太陽光発電の72%(2014年)がこうした「無料設置」であるというデータもあり、太陽光発電の導入増加を後押しする要因となっています。
無料設置のメリット
続いて、無料設置のメリットの部分を紹介していきます。
百万円近い導入費用をゼロにできる
太陽光発電の導入にあたって発生する、大きな初期費用を「ゼロ」にできるのが無料設置サービスの最大のメリットと言えるでしょう。
太陽光発電は費用が高額になるため、場合によってはローンを組む人も少なくありません(銀行が専用の商品を用意している場合もある) また、新築時に設置する場合は住宅ローンで返済する場合もあります。無料設置サービスでは、金利負担が無くなる点もメリットです。
例えば住宅ローンで35年固定・金利1%で太陽光発電の設置のために100万円を借り入れた場合、金利負担は合計18.5万円にのぼります。この金利負担が無くなる点は大きなメリットと言えるでしょう。
電気料金が安くなる
無料設置サービスを提供している会社では、無料設置とあわせて格安な電気料金プランを用意しています。多くの場合、大手電力会社の一般的なプランより割安に設定されているため、電気料金が安くなります。
また、一部のサービスでは自宅で発電した電気を一定量まで「無料で」使うことが出来るものもあります。
メンテナンスの手間・費用が不要
太陽光発電は「設置して終わり」というものではありません。定期的なメンテナンスが必要になりますし、また故障した場合は当然修理が必要です。
無料設置サービスの場合、(契約期間中の)メンテナンスに掛かる費用は設置業者が負担します。また、万が一故障した場合にもやはり業者負担で修理が行われるため、利用者の負担がありません。
一定期間経てば自分のものにできる
「契約期間」が終了すると、太陽光発電システムの所有権が利用者側に移ります。無料で太陽光発電システムがもらえるというわけです。
契約期間はサービスによって異なりますが、10〜20年というものが多いです。
停電時に非常用電源として使える
住宅に太陽光発電を設置するメリットとしてよく言われるのが、停電発生時の「非常用電源」としての活用です。
もちろん太陽が出ている昼間しか使えませんが、最大で1500Wの電気を使えます。発電量が充分なら炊飯器でご飯を炊くことも出来ますし、夕方近くでもスマホの充電くらいは出来るでしょう。
無料設置で導入した太陽光発電システムについても、停電時にはこうした非常用電源として活用することができます。設備も対応していますし、規約上も「OK」となっているものがほとんどです。
無料設置のデメリット
続いて、契約する前に確認すべきデメリットを紹介します。
導入にあたって審査がある
ビジネスとして「無料設置」しているので、導入にあたっては審査があります。発電量のシミュレーションや建物の築年数によっては、導入できないこともあります。
特に積雪がある地域や、築年数が古い住宅では設置を断られる可能性が高いです。設置業者は採算性を吟味した上で設置の可否を審査するため、無料設置で断られた住宅では太陽光発電システムを購入して設置することも控えた方がよい場合が多いです。
中途解約すると多額の買取費用が発生
10〜20年の契約期間の途中で解約することも出来ますが、その場合は太陽光発電システムを「買い取る」必要があります。
例えば東電系の「ほっとでんき」の場合、以下の金額が示されています(容量4.5kWの場合)
経過年数 | 10年契約 | 20年契約 |
---|---|---|
1年 | 115万円 | 121万円 |
5年 | 64万円 | 96万円 |
9年 | 13万円 | 70万円 |
10年 | 0万円 | 64万円 |
15年 | 32万円 | |
19年 | 6万円 | |
20年 | 0万円 |
懲罰的な違約金というよりも、パネルの「買い取り」をするというイメージです。
例えば業界大手のじぶん電力の担当者は「太陽光発電を導入したいが初期費用を用意できない場合、何年かサービスを利用した後で買い取ってもらう使い方もかまわない」また、「自分で購入して設置するより安く済む可能性もある」と語っています。
売電収入を得られない
設置業者は売電収入で設置費用を回収するため、利用者は売電収入を得ることが出来ません。
もちろん、契約期間終了後は発電システムが自分のものになるので、そこで生み出された電気は全て自由に使うことができます。固定価格買取制度の適用期限(10年)を過ぎているため高額の買い取りは期待できませんが、売電も可能です(ハチドリソーラーでは契約期間中も売電収入を得られます)
蓄電池やエネファームと併用できない
蓄電池やエネファーム(家庭用燃料電池)、エコウィル(ガス発電)などのシステムと組み合わせることが出来ません。これらの設備を設置している、あるいは今後設置を予定している場合は無料設置を利用できません。
「蓄電池」については、設置することで自家消費が格段に増え売電収入が減ってしまうことが理由です。
エネファームなどについては、国の制度上これらの設備を併用すると余剰電力の買取価格が安くなってしまうため、採算が取りにくくなるので業者側が認めていません。
契約期間終了後であれば、設置可能です(ハチドリソーラーであればそういった制約も無い)
家を売買する際に手間が増える
家を売買する際に、次の所有者にも「無料設置」の契約を引き継いでもらうことが、利用者側の義務として規約に書かれています。
契約変更の手続きも必要になるため、その点で「手間が増える」と言えます。
また、売買自体のハードルが上がる可能性が無いとも言い切れません。一方で発電設備があることが物件のアピールポイントになる可能性もあるので、その辺りはケースバイケースです。
屋根の工事がしにくくなる
パネルの修理費用や、パネル設置により万が一雨漏りが発生した場合などは、設置業者の責任で修理が行われます。
しかし、利用者側の理由で屋根周辺の工事が必要になる場合は、少し厄介です。仮に太陽光パネルを一時撤去する必要が出てくる場合は、当然費用は利用者側の負担となります。
とはいえ、自己負担での設置の場合でも屋根まわりの工事が「しにくくなる」というデメリットは同じなので、無料設置だけの特別なデメリットとは言えません。
契約終了後の撤去費用は自腹
10〜20年の契約期間終了後は、発電システムの所有権が業者側から利用者側に移ります。所有権が移れば後は「何をしてもいい」わけですが、撤去する場合の費用は自腹となります。
設置は無料でも、撤去する際は何かしら費用が発生することを頭に入れておく必要があります。
撤去費用については、一般的には「数十万円程度」と言われています。設置費用と比べると一桁少ない金額ですが、その費用まで念頭に入れて収支を計算する必要があります。見落としがちなポイントです。
また、メンテナンスについても契約期間終了後は自己負担です。
パネル自体は30年程度もつと言われていますが、パワーコンディショナーという設備の寿命は10〜15年程度と言われており、長期間使うには交換が必要になります。交換にはやはり数十万円掛かります。
無料設置サービスの一覧
太陽光発電の無料設置サービスを紹介して終わります。
各サービスの比較
まずは比較表で簡単に紹介します。
サービス名 | 運営会社 | 契約期間 | 対応地域 |
---|---|---|---|
ハチドリソーラー | ハチドリ電力 | 15年 | 全国 |
ほっとでんき ※新規受付終了 |
TRENDE(東電系) | 10年 20年 |
関東・中部 関西・九州 |
Looop未来発電 ※新規受付停止 |
Looop | 10年 | 関東・中部 関西・九州 |
シェアでんき | シェアリングエネルギー | 20年 | 北海道・北陸・沖縄 などを除く全国 |
HOME太陽光でんき ※新規受付終了 |
ハウステンボス | 10年 | 関東・中部・関西 |
京セラ関電エナジー | 京セラ関電エナジー | 10年 | 関東・中部 |
じぶん電力 ※営業終了 |
日本エコシステム | 20年 | 北海道・北陸・沖縄 などを除く全国 |
ソラトモサービス | 日本エコシステム | 10年(5kW以上) 13年(5kW未満) |
|
ソーラーリーシング ※運営元破産 |
アンフィニ | 10年 | 北海道沖縄除く 全国 |
続いて、各社のサービスを詳しく紹介します。
ハチドリソーラー
社会問題の解決を掲げるハチドリ電力の太陽光発電設置サービスです。
基本15年契約で、月額6300円〜の費用が発生するため「無料設置」ではありませんが、その分発電した電力は制限無く自家消費できるほか、自分の好きな電力会社と組み合わせて利用出来るので電気代が割高になる心配もありません。契約期間満了後は太陽光発電システムは無償で譲渡されます。設置されるパネルは日本製(長州産業)です。
ほっとでんき
2018年サービス開始。東京電力系の新電力、TRENDEが提供しています。関東・中部・関西・九州に対応。
10年契約と20年契約の2種類のプランがあり、いずれも電気料金プランとのセット契約が必要です。電気料金は20年契約の方が安く、大手電力と比較して20%安、10年契約は10%安と、太陽光無料設置サービスとセットになっている他社の電気料金プランよりも割安です。
2022年6月をもって新規受付が終了しました。
Looop未来発電
中部電力が出資しているLooopが提供している太陽光発電の無料設置サービスです。関東・中部・関西・九州に対応。
契約期間は10年で、Looopから電力供給を受けることが必要です。電気料金プランは50A以上の契約であれば、大手電力よりも割安になる料金設定です。
新規受付は停止しています。
シェアでんき
2018年に開始したサービスです。
自家消費分に掛かる電気代が他社より安い(無料分も設定)点がメリットです。一方、契約期間満了後の11年目から10年間は指定の業者への余剰電力の売電が必要になるなどのデメリットもあります。他社と比較して制約が多いです。
HOME太陽光でんき
佐世保にあるテーマパーク、ハウステンボスが提供しています。2017年開始のサービスです。信頼性が高い京セラ製のパネルを設置します。
ハウステンボスが属するエイチ・アイ・エスグループは、旅行会社でありながら電力会社(HTBエナジー)を設立したり、太陽光やバイオマス発電所を建設しています。→経営難のため光通信グループに売却
2021年9月現在新規受付を終了。
京セラ関電エナジー
京セラと関西電力の共同設立会社です。関東と中部のみ対応。
京セラ製のパネルを設置する安心感がある反面、セット契約が必要な電気料金プランが他社(Looopやほっとでんき)よりも割高。また途中解約時に発生する違約金も高めに設定されている点には注意が必要です。
じぶん電力
2016年にサービスを開始した、日本国内初の太陽光発電「無料設置」サービスです。
NTTグループの工事を請け負う大手情報通信建設会社である日本コムシスの子会社が提供していましたが、2018年に東電系のTRENDEに事業譲渡されました。
ソラトモサービス(長州産業)
パネルメーカーとしても知られる長州産業が提供している太陽光発電無料設置サービスです。
契約期間は10年もしくは13年(発電容量によって異なる)となっており、やや長め。導入は新築のみで、既築不可のサービスです。
ソーラーリーシング
太陽光発電パネルの原材料やパネルの製造を手掛けるアンフィニ社が提供しています。
北海道・離島・沖縄を除く全国に対応しているのが特徴です。また、オール電化住宅の場合、他社のサービスでは電気代が導入前よりも高くなるケースが少なくありませんが、ソーラーリーシングはオール電化住宅の場合、電力会社の変更の必要が無い点がメリットといえます。
運営企業が2021年9月に民事再生法の適用を申請、また2022年5月に破産手続開始決定を受けています。
運営企業の倒産や新規受付終了が相次ぐ
2022年現在、太陽光発電無料設置サービスの運営企業の倒産や、新規受付終了が相次いでいます。また、無料設置サービスとセットで加入する必要がある電気料金プラン(電力の供給サービス)も大手電力の標準メニューと比べて高騰しています。
現時点において太陽光発電の無料設置サービスの導入は推奨しません。東京都などでは補助金も手厚く提供されているので、太陽光発電を導入する場合は無料設置ではなく購入をおすすめします。
太陽光発電は同じメーカー・同じ製品であっても購入する代理店によって最大1.5倍の価格差が生じていると経産省の研究会が公表しています。導入する場合は一括見積もりサイトなどを活用して価格比較をしっかりと行ってください。
関連記事
- 電気料金プランの比較表
電力自由化のプランを簡単に比較できます 450社掲載 - 今後登場する?蓄電池の無料設置サービス
導入にあたっての課題やメリット・デメリット - 太陽光発電無料設置の比較サイト
姉妹サイト 詳細にまとめています
電力自由化とは? | 停電のリスクは? |
乗り換えでいくら安くなるの? | 乗り換えで料金が値上がりするケース |
新電力とは? |
どうやって契約するの? | 乗り換えのメリット・デメリット |
乗り換えにかかる初期費用 | 乗り換えに工事は必要? |
賃貸住宅でも乗り換えられるの? | 解約する時の違約金は? |
安くなる理由 | 電気の調達は? |