問題点が目立つ「ゼロからでんき」
東電系のTEPCOライフサービスが提供して、ビックカメラなどでも販売している「ゼロからでんき」を詳しく解説します。一見すると他社より安く見えますが、注意すべき点がある料金プランです。
料金設定は「最安値水準」
「ゼロからでんき」の料金メニューを解説します。
他社との比較
ゼロからでんきは基本料金0円、使用量に応じて一律単価の従量料金が課金される料金体系です。同様の料金体系を取っている、「最安値水準」の他社と料金単価を比較します。
地域 | ゼロから | ピタでん |
---|---|---|
北海道 | 28.00円 | 28.77円 |
東北 | 24.90円 | 25.71円 |
東京 | 24.20円 | 25.71円 |
中部 | 22.90円 | 25.71円 |
北陸 | 21.30円 | 21.13円 |
関西 | 22.00円 | 21.59円 |
中国 | 23.80円 | 23.57円 |
四国 | 23.80円 | 23.93円 |
九州 | 22.00円 | 22.66円 |
沖縄 | 27.0円 | 非対応 |
「ピタでん」は新電力大手のF-Power社が提供しているサービスで、基本料金0円・一律単価の料金プランとしては最安値水準のプランです。それと比較しても、ゼロからでんきは多くの地域で料金単価が安いことが分かります。
電源調達費調整額という落とし穴に注意
料金プランを見ると「安い」と感じるゼロからでんきですが、そこには注意すべき点があります。
電源調達費調整額とは
ゼロからでんきは、電気料金の他に燃料費調整額と再エネ賦課金、更に電源調達費調整額という費用が加算された額が電気代として請求されます。
再エネ賦課金と燃料費調整額に関しては他のほとんどの大手電力・新電力でも同様の仕組みであるため説明は省略しますが、注意すべき点は「電源調達費調整額」です。ほとんどの電力会社は採用していない仕組みです。
「電気」は卸電力取引所というマーケットで日々取引されていますが、その取引価格の変動をユーザーに負担してもらう仕組みが「電源調達費調整額」です。ゼロからでんきを含め、ごく少数の新電力が採用しています。
ゼロからでんきの料金メニュー定義書によれば、以下の計算式によって計算されます。
電気代が割高になるリスクがある
卸電力取引所の取引価格は、発電所のトラブルや天候によって大きく乱高下することがあります。また、相場全体として「高騰」していることが、卸電力取引所からの調達に頼っている新電力の経営を大きく圧迫しているとの指摘も根強いです。
例えば東日本3エリア(北海道、東北、東京)では東京エリアの取引価格を参照するとしていますが、19年度平均の取引価格平均は9.15円/kWh、18年度は10.68円でした。それに対しゼロからでんきの「基準単価」は8.17円と設定されています。
東京エリアプライス 2019年度平均 |
9.15円/kWh |
---|---|
東京エリアプライス 2018年度平均 |
10.68円/kWh |
ゼロからでんき 基準単価 |
8.17円/kWh |
2018年度実績のデータで計算すると、10.68-8.17=2.51円/kWhが「電源調達費調整単価」となります。例えば月300kWhを使用する一般家庭の場合、電源調達費調整によって電気代が月753円押し上げられる計算です。
ちなみに、ゼロからでんきの料金単価(東電エリア)は2020年6月10日に26.4円から24.20円に値下げが行われていますが、一方で基準単価は10.11円から8.17円へと引き下げられ、以前よりも電源調達費調整がプラス方向に発生しやすくなっています。
なお、市場での取引価格は高騰することがあります。瞬間的には100円/kWhを超えた記録もあり、特に大規模な発電所の支障などが発生した場合は、長期にわたって「高値」が継続する恐れもあります。乗り換える前の大手電力会社の料金プランよりも割高になる可能性はゼロではないと言えます。
安く見えるが、「そう見えるだけ」という可能性も
ゼロからでんきの料金単価24.2円/kWh(東京エリア)に、18年度想定の電源調達費調整単価2.51円/kWhを加算すると、合計で26.71円/kWhとなります。この単価を他社と比較してみましょう(いずれも基本料金0円・一律料金単価) ※ゼロからでんき以外の新電力にはいずれも電源調達費調整がありません。
社名 | 料金単価 |
---|---|
ゼロからでんき 2018年度想定 |
26.71円/kWh |
楽天でんき | 26.50円/kWh |
Looopでんき | 26.40円/kWh |
あしたでんき | 26.00円/kWh |
ピタでん | 25.71円/kWh |
料金メニューに記載された料金単価の比較では「勝負にならなかった」他社の方が、ゼロからでんきよりも安くなることが分かります。
「係数y」というリスクも
更に注意すべきは「係数y」という数値の存在です。
ゼロからでんきの電源調達費は以下のように計算されます。
取引価格と基準単価から求められた電源調達費調整単価に、更に「係数y」を掛けて電源調達費が計算される仕組みです。では、この「係数y」とは何か。
ゼロからでんきのサポートセンターに2020年6月にメールで問い合わせて得られた回答は以下のとおりです(係数yを知りたいので記載された資料を拝見したいと申し出たことに対する回答)
予め定めていないので、資料はございません。
エリア毎・月毎に0.000〜1.000の間で当社が決定します。引用元:TEPCOライフサービス「ゼロからでんき」カスタマーセンター回答
驚くべきことだと思いますが、「係数y」は予め定められた数字ではないとのことでした。例えば係数yを「0」とした場合は、電源調達費調整単価は0円となりますが、「1」とした場合は1倍されるので「市場価格の平均値−基準単価」がそのまま適用されることになります。
同社カスタマーセンターの回答によれば、電源調達費調整単価はマイナスになる場合もあるとのことでした。2020年現在、新型コロナの影響で経済活動が停滞し、電力の取引価格も大きく下落しているため、電源調達費調整単価がマイナスとなり電気代が「安くなる」可能性があります。
ですがこの「係数y」は予め定められたものではないので、例えば調整単価がマイナスに触れる時にはy=0とすれば電気代を割り引かなくて済むわけです。逆に調整単価が(2018・19年度のように)プラスになる場合はy=1とすることも可能です。
予め定められていない「係数y」は非常に不透明な仕組みであると言わざるを得ないです。
沖縄ではこのようなリスクは無い
これまで指摘した電源調達費調整に関する問題点は、沖縄エリアには関係がありません。というのも沖縄エリア向けの電力取引市場が開設されていないため、取引価格を参照することが出来ず、ゼロからでんきも電源調達費調整は沖縄には適用しないとしています。
当サイトでは沖縄のみ、ゼロからでんきの料金プランを料金シミュレーションに掲載しています。東京エリアでは2018年度のデータで計算すると楽天でんきよりも高くなると紹介しましたが、沖縄でも楽天でんきよりやや高いので、料金プランを設定する際の「想定ライン」を感じてしまいます。
なお、沖縄以外のエリアでは電源調達費調整による誤差が大きくなるため、当サイトの料金比較シミュレーションには掲載しません。
燃料費調整額にも注意が必要
電源調達費については上で指摘したとおり「リスク」があります。それに加えて燃料費調整額についてはリスクではなく既に発生している問題点を指摘せねばなりません(2020年7月18日追記)
そもそも燃料費調整額とは
燃料費調整額とは、ほとんどの電力会社・新電力が採用している、毎月の電気料金を「調整」 する仕組みです。燃料の輸入価格に応じて、電気代を高くしたり、あるいは安くするシステムです。
多くの新電力は、各地域の大手電力会社と「同額」の燃料費調整額を採用しており、電力会社を選ぶ上で問題にならないことが多いですが、一部には独自の燃料費調整額を採用していたり、あるいは再エネ系の新電力や料金プランは燃料費調整を行わないところもあります。
なお、昨今は燃料の輸入価格が安いため燃料費調整額はマイナス、つまり電気料金が安くなる方向に作用しています。例えば東京電力エナジーパートナーの2020年6月適用分の燃料費調整額は-2.11円/kWhなので、月300kWhの電力を使用した場合は電気代から633円が割り引かれます。
燃料費調整額に掛かる係数xという問題点
電源調達費に掛かる「係数y」のリスクについては、記事前半で指摘したとおりです。それに加えて、ぜろからでんきでは燃料費調整額に対しても「係数x」を設定しています。
この係数xは0〜1の間でTEPCOライフサービス側が定めるもので、「1」の場合は各地域の大手電力会社や多くの新電力と同額の燃料費調整額、「0」とした場合は燃料費調整額が0円になります。
2020年6月適用分の燃料費調整単価を見ると・・
百聞は一見にしかず。2020年6月適用分のTEPCOライフサービスの燃料費調整単価を見てみましょう(東京電力エリア)
ゼロからでんき | ゼロからでんき(CP) | |
---|---|---|
料金単価 | 26.40円/kWh | 24.20円/kWh |
燃料費調整単価 係数x |
-2.11円/kWh 係数x=1.00 |
0.00円/kWh 係数x=0.000 |
差し引き | 24.29円/kWh | 24.20円/kWh |
ゼロからでんきは2020年6月から料金プランを変更し、料金メニューにある料金単価を「値下げ」しています。20年6月以降の料金プランが「ゼロからでんき(CP)」です。
料金メニュー上では2.20円/kWhと大幅な値下げを行っていますが、その裏では燃料費調整額に掛かる係数xが値下げ前のメニューとは異なるものが適用されているため、実質0.09円/kWhの値下げに留まります。
燃料費調整額を含めて他社と比較すると
同様に基本料金0円・一段階の従量料金単価を採用している他社と料金単価・燃料費調整単価を比較します(2020年6月適用分、単位は円/kWh)
社名・プラン名 | 料金単価 | 燃料費調整単価 | 差し引き |
---|---|---|---|
ゼロからでんき プラン(CP) |
24.20円 | 0.00円 | 24.20円 |
ゼロからでんき 値下げ前 |
26.40円 | -2.11円 | 24.29円 |
楽天でんき | 26.50円 | -2.11円 | 24.39円 |
Looopでんき | 26.40円 | -2.11円 | 24.29円 |
あしたでんき | 26.00円 | -2.11円 | 23.89円 |
ピタでん | 25.71円 | -2.11円 | 23.60円 |
燃料費調整単価を含めて見ると、「ゼロからでんき」よりも割高に見えた競合他社と同等、あるいは他社の方が安いことが分かります。
記事執筆時点で7月18日ですが、TEPCOライフサービスの公式サイト上に7月適用分の「係数x」が掲載されていないため不明ですが、他社の2020年7月適用分の燃料費調整単価は-2.44円/kWh、8月は-2.85円です。仮にゼロからでんきの係数xが6月と同様に「ゼロ」の場合、7月以降は楽天でんきよりもゼロからでんきの方が高いことになりますし、「値下げ前」のゼロからでんきの以前の料金メニューの方が安くなります。
ゼロからでんきの評価
電源調達費調整を公式サイトに明記すべきでは
これまで問題点を指摘した「電源調達費調整」ですが、ゼロからでんきの公式サイトの目立つ場所に記載が無い点は直ちに是正されるべきだと思います。
電源調達費調整に関する記載は重要事項説明書などのPDF内にありますが、そうした資料を読まない消費者も少なくありません。リスクはしっかりと目立つところに掲載すべきです。
また、上でも指摘した「係数y」は予め固定値として定めた上で、約款などに記載するべきでしょう。記事が長くなってしまうため省略しましたが、燃料費調整額の「係数x」も同様です。
顧客対応は?
サービス開始直後の2020年6月にメールで問い合わせたところ、日曜日に送信したメールの返事が翌月曜日の夕方に届きました。更に追加で問い合わせたところ、翌朝には返事が届きました。
回答の内容も的確であったため、顧客対応の質・速さに問題は無いと感じました(新電力としては優秀な水準と言える)
環境・エコ
設立から新しい会社のため、CO2排出係数などのデータが無いため評価は見送ります。
解約違約金にも注意
2020年8月末まで実施しているキャンペーン期間中に申し込んだ場合、供給開始から2年以内に解約すると5千円の解約手数料が発生します。
新電力の解約条件としては「厳しい」内容と言えます。なお、キャンペーン中以外については解約にあたっての違約金、事務手数料などの費用は発生しないとしています。