日本はなぜ電力不足に陥っているのか。電力自由化の専門家としてこれまで多数のメディア取材(産経新聞、週刊女性自身、日経トレンディほか)を受けてきた筆者が、その原因を解説します。
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Contents
深刻化する電力不足
日本では2011年以来、電力不足による節電要請が頻発しています。2022年3月には大規模停電の一歩手前という危機的状況に、また2022年夏や2023年1・2月にも深刻な電力不足の発生が懸念されています。
電力不足の懸念では留まらず、2018年には北海道全域が停電、その後1ヶ月以上に渡り市民生活にも影響が出る形で厳しい節電対応が取られたこともあり、危機は既に現実のものとなっています。
日本の電力不足の根本的原因
なぜ電力不足が頻発しているのか。その理由を解説します。
火力発電所の廃止
電力不足の原因の一つとして、火力発電所の廃止が進んでいることが背景にあります。詳しく解説します。
老朽化が進んでいる
現在、日本の電力需要が盛んに伸びていた頃に稼働を開始した火力発電所が老朽化する時期を迎えています。特に石油火力発電所はオイルショック以来新規建設が原則禁止されており、稼働から40年が経ち次々と廃止が進められています。石油火力発電所の34%が、火力発電所全体の20%が2013年度時点で稼働から40年が経過した「老朽火力」となっており、現在は状況が更に深刻化しています。
脱炭素化により新規の建設が進んでいない
老朽化した発電所は本来であれば建て替えの必要がありますが、その建て替えが思うように進んでいない状況があります。その原因の一つが、脱炭素化の動きです。
世界が地球温暖化対策に取り組む中で、日本も脱炭素化を進めています。火力発電は大量のCO2を排出します。特に石炭火力発電は火力発電所の中でも大量のCO2を排出するため、環境意識が高い欧州先進国では廃止の方針が示されており、日本もそれに追随して段階的に削減する方針を示しています。
火力発電所には多額の建設費が掛かります。30年40年かけて費用を回収する必要があるため、初期投資を回収し終える前に「火力発電所禁止」が打ち出された場合、火力発電所に投資をした電力会社は大きな損失を抱えることになります。脱炭素化の流れは火力発電所への新規投資を滞らせる効果が大きいです。
脱炭素化による電力不足は日本以外の国でも発生しています。オーストラリアでは石炭火力発電所の休止が進んだ結果、2022年6月現在シドニーの周辺などで深刻な電力不足が発生しています。
太陽光発電の導入拡大の影響も
日本では固定価格買取制度に導入により、太陽光発電の導入が急拡大しました。あまりにも急激に拡大したことで、九州地方では太陽光発電で作られた電力を「捨てる」出力制御という対応が頻発に取られています。太陽光発電の発電量の約4%(2021年度)が捨てられています。電力は供給量と需要量が一致しないと大規模停電が発生します。それを防ぐための対応です。
電力は通常、1kWhあたり8~10円程度で取引されますが、太陽光発電の発電量が多い時間帯はわずか0.1円とタダ同然の価格で取引されています。太陽光発電の導入拡大により、タダ同然で取引される時間は拡大を続けています。
電力の取引価格が0.1円のような安い価格で取引されるタイミングで火力発電所が発電をしても、火力発電所は採算が取れません。その結果、火力発電所は稼働時間が短くなり、採算が悪化することで廃止に追い込まれている、あるいは新設が滞っている側面もあります。
一方、太陽が出て太陽光発電による発電が期待できる時間帯には電力不足は起こりづらくなっており、太陽光発電の導入拡大に人々の「電気の使い方」が追いついていないと言えます。
原子力発電所の停止
日本では2011年の原発事故以来、多くの原子力発電所が稼働を停止しています。原発事故前の2010年度は約25%が原子力発電による発電であったため、それらが一斉に稼働を停止したことで発電能力が不足している側面があります。
それに加え、原子力政策を10年にわたり曖昧なまま放置してきたことも電力不足を深刻化させた要因とも言えます。
原子力発電所が再稼働できず、かといって廃止されるわけでもなく「放置」されています。廃止されない以上は将来的に再稼働する可能性があるわけですが、原発が1基再稼働するだけでもそのエリア(電力管内)の電力需給に大きな影響を及ぼします。
再稼働する可能性がある(が、現在は停止している)原子力発電所が残り続けることによって、火力発電所を新設する際の採算の見通しが悪化することで、火力発電所の新設が進みづらくなっている側面もあります。再生可能エネルギーの導入拡大にも少なからず悪影響を与えていると言えます。
電力自由化の制度設計の不備
2000年代から段階的に進められ、2016年に小売完全自由化が行われました。この電力自由化の制度設計の不備が電力不足を招いている側面があります。
電力自由化で参入した新電力と呼ばれる新しい電力会社の多くは発電所を保有しておらず、発電所を保有する電力会社や製鉄会社などと契約したり、卸電力取引所という市場から電気を購入しています。
卸電力取引所の取引価格は発電所の「固定費」部分を必ずしも反映していない価格で取引されていると指摘されています。卸電力取引所での取引が増えると発電所を維持することが難しくなるということです。
電力不足が起こらないよう、新電力を含む電力会社が「発電能力」に対してお金を払う(発電所を保有する企業がお金を受け取る)制度が2024年度から本格的に始まりますが、電力小売完全自由化から遅れること8年。このタイムラグが現在の電力不足を招いた原因の一つと言えます。2016年時点でこのような制度が導入されていれば、都市ガス会社を始めとする大手新電力による発電所建設も現在より一段と進んでいた可能性があります。
当サイトは2014年から電力自由化をテーマに運営を続けていますが、電力自由化の制度設計の不備が電力不足の一因となっていることは否定しようのない事実であると考えています。
電力不足は複合的要因によるもの
特定のイデオロギーを持つ人が、現在の電力不足について特定の原因にばかり焦点を当てて批判する姿がSNS上などでは見られます。
ですが現在発生している電力不足は、上で説明した複数の要因が重なり合うことによって生じているものであり、特定の要因だけを切り抜いて批判することは適切とは言えません。
特定の要因だけクローズアップしている人やメディアがあったとすれば、それらは電力不足という大きな問題を悪用し、自身が望ましいと思う方向への誘導を試みているだけであって、電力不足の解消という重大な社会課題の解決には何ら興味が無い可能性があります。
今出来ることは?
発電所の建設には5年以上と長い時間が掛かります。目の前に迫る電力不足に対して、発電所の増設の議論は解決策にはなりません(もちろん、長期的な視点では必要なことです)
今出来ることは節電への協力と、電力不足により停電(計画停電を含む)が発生することへの備えを万全にすることしかありません。
当サイトでは節電対策や停電対策になる現実的な方法を多数紹介しているので、参考にしながら無理の無い範囲で節電・停電に備えてください。
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