マンションの「一括受電」のメリットとデメリット
2016年の電力自由化以降は下火になっているものの、「一括受電」の導入を検討している大型マンションは少なくありません。そんな一括受電のメリットとデメリットを、詳しく解説します。
ちなみに、私自身は居住していませんが一括受電導入済みのマンションに部屋を持っているので、そのエピソードもあわせて紹介します。
目次
一括受電を導入するメリットは
まずは一括受電のメリットから説明します。
電気代が安くなる
一括受電を導入する最大にして唯一のメリットは「電気代が安くなる」ということです。
料金体系はマンションによって異なりますが、専有部分(各戸)で数%程度〜、共用部分については数十%もお得なプランを提示する業者もあるようです。一括受電大手の中央電力のサイトでは「共用部分」で20〜40%、「専有部分」で最大10%安くなると謳われています。
私が所有する一括受電を導入しているマンション(都内・300戸規模)の場合、「共用部で25%オフ・専有部は東電と同額」となっています。削減額は年間204万円にものぼります。
導入にあたって設備の改修が必要となりますが、それらの費用負担も無い場合がほとんどです。負担無しで月々の電気代が安くなる、というのは大きな魅力と言えるでしょう。
また、都市ガスについても一括受電のようなサービスを導入するべく、議論が進んでいます。将来的には電気・ガスともに一つの会社と契約して「セット割引」を受けることも可能になるでしょう。
一括受電のデメリット
続いて、一括受電のデメリットや欠点を紹介します。
削減額は新電力に劣る
2016年4月にスタートした電力自由化では、これまで自由に選ぶことが出来なかった電力会社を、各家庭ごとに選択できるようになりました。分譲・賃貸問わずマンションやアパートもその対象です。
電力自由化で参入した新電力の中には、従来の電力会社よりも10%以上安い料金プランを提示している会社も少なくありません。多くの場合、新電力から一括受電に切り替えることで電気代の負担額が上がることになります。
既に新電力と契約し、電力自由化のメリットを得ている人たちに負担を強いることになります。
また、一括受電を導入せずに専有部・共用部それぞれ別々に電力会社を切り替えた方がお得になるケースも少なくありません。
例えば私のマンションの場合、一括受電導入のメリットは共用部で年204万円の削減(専有部にはメリット無し)なので、1戸あたり月577円の効果が生まれます。
ですが一括受電を導入せずに東電から新電力に切り替えた場合、共用部の電気代は15〜20%安くすることが可能です。15%安の場合、年間トータル103万円・戸あたり月286円の削減になります。
専有部の方も各自で新電力(例えば東京ガス)に切り替えた場合、7.6%・年間8423円の削減が可能です(30A/月348kWh) 月あたり701円のメリットです。
共用部で月286円、専有部で701円なので合計すると987円。一括受電を導入した場合と比べて、更に月401円安くなる計算です。
今後の料金相場の変化に対応できないリスク
東日本大震災後の原発停止により、電気料金は全国的に「高止まり」を続けています。しかし西日本を中心に再稼働が徐々に進み、電気料金の「値下げ」の動きが活発化しています。
一括受電は、「高圧電力」と「低圧電力」の価格差を利用してお得な電気料金を提示しています。高圧と低圧の料金差は電気料金の値下げが行われても大きくは変わらないため、全国的な値下げがあっても一括受電の業者への影響は大きくはありません。
しかし、場合によっては大手電力会社が値下げしても一括受電の料金が値下げされない、ということも起こるでしょう。その場合は当初想定した削減額が達成されなくなります。
家庭向けの新電力でもそうですが、大手電力会社の値下げに追随して値下げするのが「当たり前」ですが、値下げ前よりも削減額(大手電力と比較した料金差)は少なくなるのが一般的です。
大手電力が値下げをすると、いずれにせよ当初予定されていた削減額の達成は難しくなります。
実際に起きた問題として、2022年に一括受電業者が電気代の値上げを実施、「大手電力標準メニューと同額」あるいは「安くなる」との説明で導入されたはずの一括受電の電気代が、大手電力標準メニューよりも割高となるケースが数多く発生しました。例えば東京電力管内では東電より2割以上、割高になった時期があります。
関西・九州ではより深刻で、同額あるいは大手電力より安くなるはずだった専有部向け料金が2022年以来、1年以上にわたり割高な状況が続いています(多くの一括受電業者が該当)
これら直近で起きた・起きている問題は燃料費調整額に設定された「上限」の有無に起因します。電気代を比較する際は燃料費調整額まで含めてよく比較する必要があります。
中途解約が難しい(10年契約が基本)
一括受電は「10年契約」が基本です。途中で解約するには、マンション管理組合などが一括受電業者に対し、高額な違約金を支払う必要があります。
某社の場合、1000円×戸数×残存月数が請求されます。
一括受電を導入するにあたって、変電設備や新しいメーターの設置が必要となります。そうした設備の設置費用が発生しないかわりに、10年という長期での契約が必要となります。
10年も経てば日本の電力事情も変わっています。こうした長期契約には、将来現れるかもしれない「より良い選択肢」を選ぶ機会を奪うリスクがあります。
ちなみに、各家庭ごとに契約できる新電力の場合は、契約期間に関係なく違約金無しで解約できる会社が多いです。
1〜3年に一度の停電が必要
一括受電を導入した建物では1〜3年に一回の頻度で「全館停電」を行い、設備の点検をすることが法律で義務付けられています。停電時間はおおむね1〜2時間程度です。
エレベーターや冷暖房が一時的に使えなくなるのは不便ですし、私のように在宅で仕事をしている人間にとっては、なかなか頭の痛い問題です。また、自宅で介護や治療を受けている人や、保温が必要な熱帯魚や爬虫類を飼っている人にとってはそれこそ「死活問題」になります。
一括受電の導入時・終了時にもメーター交換などの作業が必要となるため、停電する場合があります。
ただし、一括受電でない高圧受電の大型マンションでは一括受電と同様に全館停電が必要となるケースもあるため、必ずしも一括受電特有のデメリットとはいえない部分もあります。
売却・賃貸募集時に悪影響も
国土交通省の指針により、一括受電を導入している建物で賃貸を募集したり、売却を募る場合は重要事項説明として一括受電を導入している旨を説明する必要があります。
既に新電力で安い料金を享受している人や、エネルギー問題に強い関心を持っている人は、特に一括受電を嫌います。賃貸募集や売却時にマイナスポイントとなる可能性はゼロではありません。
私が部屋を所有しているマンションの場合、共用部の料金は25%になっていますが専有部は東電と同額のため、賃貸入居者にとっては直接的なメリットがありません。嫌煙されるリスクはゼロではないと考えています。
合意形成が難しい
一括受電の導入にあたって、マンションの管理組合の総会での決議後、「入居者全戸」の同意が必要となります。
「入居者」というのは所有者ではなく、賃貸で住んでいる人も含めた文字通りの入居者が該当します。住戸はもちろん、店舗が入っている場合はそのテナントの同意も必要です。それらの合意を取りまとめるのは非常に大変なことです。
ちなみに、私が部屋を持っているマンションで一括受電を導入する際、賃貸(某メガバンクの借上社宅)で住んでいた1戸の反対で導入が一時ストップしたことがあります。他の300戸と店舗などのテナントが全て同意していても、一人の銀行員の反対で完全停止しました。
始めるのも大変ですが、止めるのもなかなか大変だと思います。
環境負荷を増やすケースも
ケースバイケースですが、一括受電業者に切り替えることでCO2排出量を増やしてしまうことが往々にしてあります。
例えば東京電力の場合、1kWhあたり474gのCO2を排出しますが、一括受電大手の中央電力は571gを排出します。一括受電に切り替えるだけで、CO2排出量が20%も増加してしまいます。
リフォーム時に障害となる場合も
分譲マンションでもあとから「オール電化」にリフォームすることが可能な場合もあります。ガス火を使わず安全性が高いため、オール電化へのリフォームのニーズは高まっていくでしょう。
オール電化はIHコンロに加え、電気でお湯を沸かす「エコキュート」を導入します。エコキュートは夜間にまとめてお湯を沸かすシステムで、夜間の電気代が安いプランの利用が前提となります。
例えばオール電化プランで月15000円の料金負担のケースでは、一般向けの料金プランを利用すると同じ使用量でも2万円を超えてしまいます。
一括受電の場合、オール電化対応プランが無いことが多いため、オール電化を導入しづらくなります。
電気代が後から値上げされて高額に
マンション一括受電大手の中央電力が利用規約を変更し、利用者の電気料金を実質値上げしました。
10年以上と長い契約期間であるにも関わらず、導入後に値上げされるケースがある点には注意が必要です。値上げされてしまうと、当初見込んだ料金削減メリットを実際に得られなくなる、あるいはメリットが縮小する恐れがあります。
「東電と同じ」と言われて導入した一括受電が、2023年2月現在の電気料金で計算すると東電よりも約25%割高になっています。
まとめ
まとめます
新規導入するメリットは小さい
電力自由化で安い電力会社を選べるようになった今、一括受電を選ぶメリットは少ないですし、デメリットが大きいと言えます。見送るのが吉ではないでしょうか。
共用部分だけでも電力会社を変更可能
一括受電のように「共用部分30%オフ」というのは難しいですが、共用部分「のみ」電力会社を切り替えることも可能です。見積もりを取ることをおすすめします。
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